バチカンから見た世界(36) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
核兵器禁止条約の成立に向けて
今年7月、国連本部で核兵器禁止条約が採択されたが、この第3回「核兵器の人道的影響に関する国際会議」が成立への機運を大いに高めたとされる。この会議では、長崎への原爆投下で被爆した田中熙巳・日本原水爆被害者団体協議会事務局長が自らの体験を話した。また、6月21日付の朝日新聞が、「過去2回は不参加だった核保有国・米国の政府代表も初めて参加したが、主役はその核大国の被曝(ひばく)者だった」と報じたように、米国の核実験により被害を受けた女性も自身の体験を伝えた。トマシ大司教は第3回の同会議に出席しており、「160の参加国が核兵器の使用のみならず、保有も禁ずる道を探り始めたのだ」と述べ、同会議が核兵器禁止条約の成立に向けて果たした意義を評価した。
当時、教皇が同会議に宛てメッセージを送ったことを記したが、この中で、「核兵器の人道被害は予見できる。これは地球規模で起こるものだ。大量の死を引き起こす核兵器の破壊力に議論が集中するが、核兵器の使用によって生み出される“必要なき苦”に対しても、もっと強い注意が払われなければならない」と主張している。
また、「国際人道法によって、必要のない苦を強いた者を(戦争犯罪者として)処罰してきた。通常兵器による戦争でさえ処罰されるのであるから、核戦争においては、さらに厳しく処罰されなければならない」と訴えた。さらに「私たちの間には、核兵器の犠牲者たちがいる。彼らは『人々と創造(自然)を破壊するという、取り返しのつかない、同じ過ちを繰り返さないように』と警告している」とし、同会議に出席していたヒバクシャに思いを寄せた。