第34回庭野平和賞贈呈式 庭野日鑛名誉会長 挨拶
本日は、「第34回庭野平和賞」の贈呈式にあたり、文部科学事務次官・戸谷一夫様、日本宗教連盟理事長・芳村正德様、駐日ローマ法王庁大使・ジョセフ・チェノットゥ様をはじめ、多くのご来賓のご臨席を賜り、あつく御礼申し上げます。
今年度の庭野平和賞を、「ヨルダン及び聖地福音ルーテル教会」の監督であり、「ルーテル世界連盟」名誉議長のムニブ・A・ユナン師にお贈りできますことは、大変光栄なことでございます。
ご存じのようにユナン師は、ユダヤ教、キリスト教、イスラームの聖地であるエルサレムで諸宗教間の対話を推進しておられます。とりわけイスラエル・パレスチナ問題の平和的な解決に向け、精力的かつ献身的な努力を続けてこられました。
庭野平和賞が、イスラエルとパレスチナの融和に取り組む個人および団体に贈呈されますのは、第10回の「ネーブ・シャローム/ワハット・アッサラーム」、第18回の「エリアス・チャコール師」、第23回の「ラバイズ・フォー・ヒューマンライツ」に次いで、4回目であります。庭野平和賞委員会および当財団が、中東問題の解決に、深い関心を抱き続けていることが、このことからもお分かり頂けるのではないかと思います。
人間は、誰もが完全ではありませんから、時には相手と行き違いが生じ、対立したり、ケンカになったりすることがあります。問題がこじれてしまったケースでは、中立的立場の第三者が仲裁に入り、解決に向かわせるというのが一般的でありましょう。これは、個人においても、民族や国家間であっても同様であります。
ユナン師の場合は、1950年、パレスチナ難民のご両親のもとにお生まれになっています。つまりイスラエル建国によって、故郷を追われた当事者のお一人であります。その意味では、イスラエル・パレスチナ問題に対して、中立的な態度をとり切れなかったとしても不思議ではありません。
しかし、ユナン師は、ユダヤ教、キリスト教、イスラームを等しく尊重し、敵・味方なく全ての人々に愛をもって接し、共に平和への道を歩んでいけるよう地道な努力を重ねてこられました。受賞を受諾するメッセージの中で、ユナン師は、こうおっしゃっています。「他者の中に神の顔を見る」ことが大事である、と。私は、この言葉に、ユナン師のバックボーンとも申すべき精神があらわれているのではないかと受けとめております。
「他者」ということの中には、自分を敵視する者、差別する者も含まれます。それでもなおユナン師は、「他者の中に神の顔を見る」という宗教的な態度を、長年にわたって貫き通してこられたのであります。このユナン師の言葉に接した時、私はすぐに、仏教の法華経に説かれている常不軽菩薩を思い起こしました。
常不軽菩薩は、人に出会うたび、「あなたは仏になる人です」と言って、合掌・礼拝(らいはい)した菩薩です。その行動を奇妙に感じた人々は、ついに怒り出し、杖(つえ)で叩(たた)いたり、石を投げつけたりしました。それでも決して相手を怨(うら)んだりすることなく、「私はあなたを軽んじません。必ず仏になる方ですから」と言って、合掌・礼拝し続けたのです。
この常不軽菩薩は、釈尊の真の精神を体現した菩薩であり、釈尊の前世の姿ともいわれております。全ての人に宿る仏性を認め、尊重し、拝み合い、助け合うことによって初めて、平和な世界が実現することを、常不軽菩薩の説話は象徴的に教えているのであります。