第34回庭野平和賞贈呈式 ムニブ・A・ユナン師 受賞記念講演
『宗教の今日的役割』
親愛なる皆さま
本日、ここに皆さまと共にありますことを大変うれしく思っております。私は、聖地エルサレムから参りました。エルサレムは、ユダヤ教徒、キリスト教徒、ムスリム、三つの宗教の信徒にとって神聖な場所であり、イスラエル人、パレスチナ人、双方にとっては政治的にも中心となる場所です。エルサレムでは、宗教が人々の生活全般に影響を持っており、宗教に関係なく物事が決められるということは、ほとんどありません。
それゆえ、庭野平和財団のように、いのちの最も深い問いに対して宗教の役割を真剣に考えている団体を、私はありがたく思います。私たちやエルサレムの人々が共に住んでいる地球の多くの地域社会、コミュニティーにとって、公正で永続する平和を切に求めることほど重要なことはありません。
第34回庭野平和賞の受賞者として、偉大な信仰を持つ方々の仲間に入れて頂くことは、私にとって大変光栄なことです。これまでの受賞者の中には、私が尊敬するとともに、多くを学んだ方々がおられます。第1回受賞者であるヘルダー・ペソア・カマラ大司教をはじめ、エスター・アビミク・イバンガ師、フィリップ・A・ポッター博士、グナール・スタルセット師、エル・ハッサン・ビン・タラール王子殿下と、庭野平和賞は、平和構築の努力における宗教の重要性と必要性を私たちに伝えようとしてきました。
また、私は、この美しい国・日本を訪問する機会を得たこと、そして、日本の皆さまにとても親切に歓迎して頂いたことを、大切に心に留めようと思います。日本と日本の皆さまは、戦争や甚大な人的被害の廃虚の中から、美と新たないのちを生み出した高い精神性の生き生きとした力強さについて、世界に示すべき多くのものを持っておられます。
本日、私は、世の中における宗教の役割について、特に平和の構築を強く求めるための宗教の役割について話させて頂きます。はじめに私は、庭野平和賞の受賞者で、スイスのカトリック司祭であり神学者であるハンス・キュング博士の考えを振り返ってみたいと思います。キュング博士は、早くも1982年には「宗教の平和なくして世界の平和はない」という信念を表明されました。その後、博士は元となった考えを次のような言葉に発展させました。
宗教間の平和なくして国家間の平和はない
宗教間の対話なくして宗教間の平和はない
宗教の根本を探究することなくして宗教間の対話はない
キュング博士はイスラームについての著作の中で、特に、サミュエル・ハンティントンの「文明の衝突」論という分裂する世界観について述べています。ハンティントンが、他の文化の本質を、彼自身の西洋キリスト教の視点から見た違いによって示そうとしたのに対して、キュング博士は、他の信仰の伝統を有する人の話に耳を傾け、その人のコミュニティーの土台となる考えや人々の動機付けとなるものをより良く理解することが大切であると主張したのです。