【一般社団法人日本メンタルアップ支援機構代表理事・大野萌子さん】年々増加する“電話恐怖症” 自己理解が緩和のカギに

これまで25年にわたり、産業カウンセラーとして一人ひとりの心の内に耳を傾けてきた大野萌子さんは、2024年に著書『電話恐怖症』を発刊した。その中で、約10年前から電話が嫌で退職する人が現れ始め、年々増加傾向にあると語る。電話に苦手意識を持つ人の根底にあるものとは――。現代における雑談の重要性や、電話に対する不安を軽減させる方法などを聞いた。
他人との関わり方に変化が
――「電話恐怖症」とはどんなものですか
「用件を聞き取れるか不安」「話している時に人目が気になる」などのさまざまな理由から、電話対応に関する不安に苦しむ症状です。あらゆる世代の相談を受けてきましたが、電話への苦手意識は、今の30代前後の若者に多く見られます。
この世代は、学生時代からSNSが発達していたため、「相手の都合を考えながら、文章を整えて送る」というコミュニケーションに慣れています。一方で、その場で臨機応変な応答を求められる電話は、心理的負荷を感じやすいのです。つまり、相手と同じタイミングでやりとりする必要がなく、各自の都合の良い時に対応する形式の、「非同期コミュニケーション」が情報伝達の中心になっている時代背景が影響していると言えます。
また、電話が離職の原因に挙げられ始めた2015年頃から、他者との関わり方の変化を感じています。企業向けの新人研修で、「ランチセットで食後にコーヒーを頼んだのに紅茶が出てきてしまった時、あなたはどうしますか」という質問に、15年以前は「店員に伝えて、注文通りのコーヒーに替えてもらう」と答える人が約8割でした。しかし、最近では半数以上の人が「黙ってそのまま紅茶を飲む」と言うのです。店員に伝えない理由として、「面倒くさい」「まあいいやと思うから」という回答がある中で、近年は「相手にどう思われるか心配」「声をかけるタイミングがつかめない」などの声が多くを占めるようになりました。
非同期コミュニケーションが中心の生活による影響や、他人の評価基準を優先してしまう「他人軸」の思考が原因で、自分の意思をうまく伝えられない人が増えてきたことも、電話恐怖症の増加に関係があると考えます。
――電話への苦手意識の根底にあるものとは
「失敗できない」という精神的重圧を強く感じているようです。そもそも、他者とのやりとりに正解はありません。言い間違えたら修正すればいいし、分からなかったら聞き返せばいい。むしろ聞くことで、相手を知ることもできます。ただ、苦手意識をすぐに転換するのは難しいことです。なので私は、周囲との雑談から始めるのをおすすめします。
雑談には、「相手の反応を知る」「自分の感情を整理する」「関係性を深める」などの効果があります。例えば、「さっきの電話の人、ぶっきらぼうだったな」と心の中のモヤモヤを話すのもいいですし、「そばよりうどんが好き」という簡単な話題でも良いわけです。何げない会話を通して相手との心の距離が縮まることで、「困った時に相談してみようかな」と思えるようになり、より良い人間関係にも結びつきます。
雑談は、リラクゼーションにもなりますので、緊張している時や考えが行き詰まっている時に雑談を挟むと、脳が休まり、業務を再開する時に集中力を高めます。“成果のない会話”ではなく、“安心できる空間をつくるための土台”なのです。
雑談がない場所にはトラブルが起きやすいです。実際にコロナ禍で、職場でマスクをして周囲と必要以上の会話をせずに過ごしたり、在宅勤務やオンラインが中心になったりしたことで、「雑談が減り、人間関係の構築が難しい」という相談が増えました。
日頃から組織の中で、自分の考えや気持ちを誰に対しても安心して発言できる空間が整っていないと、小さな問題が起きた時に「まあいいか」と見過ごす回数が増え、問題が大きくなるまで表面化しません。些細(ささい)なことが話せない相手に、重要なことは話せないので、ビジネスコミュニケーションにおいても雑談は必須だと思います。





