楽生(らくいき)~楽に生きるを極めるヒント~(10) 文・日本笑いヨガ協会代表 高田佳子

ローマは一日にして成らず

私たちがよく知ることわざに「ローマは一日にして成らず」というものがあります。壮麗なローマ帝国も、まちの制度や整備は一朝一夕にはいかず、長い年月をかけて形づくられているという意味です。ローマは、紀元前から数百年にわたり、地中海世界を統合し、人類史に残る文化と制度をつくりました。まっすぐ延びる石畳の街道、誰もが利用できる浴場、清潔な上下水道、法治の精神。ローマの強さは軍事力だけではなく、当時の世界で最も豊かな暮らしを実現していた点にありました。

しかし、帝国が巨大になりすぎ、その豊かさを支える土台が少しずつ揺らぎはじめます。経済は疲弊し、貧富の格差拡大、物価上昇、都市設備の老朽化などにより、人々の生活は不安定になりました。政治では皇帝の交代が相次ぎ、国家としての方向性を失います。市民もまた「公共に尽くす」という誇りを忘れ、気力が弱っていきました。外部からの侵入は、弱りきった帝国に最後の一押しをしたにすぎません。ローマは外から倒されたというより、内側が細く弱っていくことで、ゆっくりと命を終えたと言ったほうが近いでしょう。

そしてローマが滅びたように、私たちの命にも終わりのときは訪れます。けれど、その終わりまでの時間を恐れや不安で満たすのか、それとも残された時間を希望のあるものへと育てていくのかは、自分次第です。

朝、目覚める。その瞬間、「今日も目覚めた!」という喜び、そこに大きな価値を感じることも、私たちにはできます。目覚めた場所が旅先の宿でも自宅の布団でも、大喜びしてよいのです。手が動き、足が動き、いつもと同じように寝床から起き上がり、顔を洗い、朝ご飯を食べられる。その当たり前の一つ一つは、やがて必ず「当たり前ではなくなる」瞬間がきます。だからこそ、大きな恵みであり、感謝するという選択もまた、あなたが今日決めることができるのです。

イラスト・みよし

未来を考えようとすると、「もう年だから」とか「今からできるわけない」「お金がない」と制限をかけてしまいがちです。しかし本当の豊かさは、すでに自分の中に積み重ねてきたものの中にあります。これまでの経験、出会い、学び、失敗、喜び、そのすべてが、自分という“ローマ”を築いてきた財産です。そのローマを穏やかで豊かにする選択は、いくつになっても、どんなときでも可能なのです。

未来の夢や楽しみとは、若い頃にやり残したことを追いかけるだけではありません。会いたかった人に会いに行く、いつかやろうと考えていたことを、思い立ったその日のうちにやる。小さな達成感や、満足な時間を味わう日々の積み重ねこそが、人生に深みと味わいを与えてくれます。

「楽生」は、楽しようとか、手を抜こうという話ではありません。自分の時間を大切に、自分の選択で最後まで生き抜く。そのためには健康への意識が大切ですし、いつもいい気分でいることも欠かせません。からだ・こころ・精神・環境など、これまでの自分をつくり上げてきたものを丁寧に扱い、慈しむことが、ローマ(自分自身)の魅力を保ち、長続きさせることです。

ローマは一日にして成らず。そして、あなたのローマもまた、一日の結果ではありません。すでにある豊かさを大切にしながら、最後の日まで、笑って元気に、やりたいことをやって生きる。そんな選択ができればと思います。

今月の笑い

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魔法の? 笑いクリーム

YouTube「高田佳子の笑トレで楽生」で、笑いの体操の動画が見られます。

プロフィル

たかだ・よしこ 兵庫県神戸市生まれ。日本笑いヨガ協会代表、一般社団法人笑いイノベーション学会理事長。早稲田大学非常勤講師。人が一生笑って生きられる環境づくりがライフワーク。40代で老年学修士号を取得し、2009年にインドで笑いヨガを学ぶ。介護予防・認知症予防・ストレスケアに役立つ「笑トレ」を提唱し、科学的知見をもとに心と体を軽やかにする生き方を発信している。

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