「世界に諸宗教対話を広めた“アッシジの精神”/聖エジディオ共同体」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

『アジアの価値』と題する分科会でスピーチする庭野理事長(カーシャ・アルテミアク撮影)
世界に諸宗教対話を広めた“アッシジの精神”/聖エジディオ共同体
1986年にイタリアの聖都アッシジで、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が世界の諸宗教指導者に呼びかけて実現した「世界平和祈願の日」。世界の宗教史において、諸宗教対話を確固としたものとして定着させた歴史的な出来事だった。本会からは、庭野日鑛次代会長(当時)が会長(庭野日敬開祖)の名代として参加した。後に、世界の宗教界で“アッシジの精神”と呼ばれるようになったこの日の祈りから今年で39周年。その精神を毎年、欧州各国を中心に継承してきた聖エジディオ共同体(カトリックの在家運動体、本部・ローマ)は10月26日から28日まで、『平和への挑戦』をテーマにローマ市内で「第39回世界宗教者平和のための祈りの集い」を開催、欧州諸国を中心に世界から延べ1万人が参加した。本会からは庭野浩士(選名・統弘)・庭野平和財団理事長が参加し、『アジアの価値』と題する分科会で発題した。
バチカンに隣接する「聖セチリアコンサートホール」での開会式で、イタリアのマッタレッラ大統領は「平和はすでに実現されたものではなく、追求され、耕され、あえて挑戦されていかなければならない」と論じながら、「自身の感情と言葉を非武装化しよう」とアピールした。聖エジディオ共同体創設者のアンドレア・リカルディ教授は、現代の世界状況を「ごく少数の指導者が、武力で支配する時代」だと分析し、「平和を守るために創設された制度が侮辱され、文明と共存の結実であった国際法が蹂躙(じゅうりん)されている」と警告した。そして、「分断された世界」では「対話が人間生命と諸国民間の関係を規制する中心とならなければならない」と訴えた。生後8カ月の時に広島で被爆した近藤紘子さんは、自身の体験を語った。これに、聖エジディオ共同体は「分かりやすく、悲苦に満ちた言葉で、自身の子ども時代を語り、開会式の参加者を感動させた」とコメントした。広島に原爆を投下した米国人の副操縦士を憎んでいた近藤さんだったが、彼に会い、彼も苦しんでいることに気づいた。「私が憎まなければならないのは、彼ではなく、戦争だ」との言葉は参加者の共感を呼んだ。イスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」(エジプト・カイロ)のアハメド・タイエブ総長は、「正義と友愛を基盤とする世界の必要性」を訴え、「人間が正義を喪失する時、人間性を失う」と戒めた。2019年にアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで、教皇フランシスコと共に「人類の友愛に関する文書」に署名したタイエブ総長は、教皇フランシスコと一緒に「人工知能(AI)に関する倫理憲章」の草案作業を開始していたと言明。アズハル、バチカン、イスラーム賢人評議会が協力して取り組んでおり、近い将来に作業が終わると公表した。
開会式を終えた参加者たちは、ローマ市内の各地に用意された22に及ぶ分科会の会場に分散し、『明日の欧州』『地中海/危機の十字路』『台頭する大陸/アフリカ』『普遍的友愛と諸宗教対話』『忘れられた危険/核無き世界』『未来を嘆願する子供たち』『難民となった民』といった世界平和にまつわる諸テーマに基づき、紛争地域の状況を分析。解決策を模索するとともに平和への誓いを新たにした。

スピーチで、アジア諸国からの庭野平和賞受賞者について紹介する庭野理事長(カーシャ・アルテミアク撮影)
『アジアの価値』をテーマとした分科会でスピーチした庭野氏は、「アジア諸国からの庭野平和賞受賞者は、これまでの42回中、15の個人や団体を数えます」と紹介しながら、「自営女性労働者協会」(SEWA)のエラ・ラメシュ・バット氏とエクタ・パリシャドのラジャゴパールP.V.氏の例を挙げ、「この二人の平和実践者にも現れているように、ガンジーの哲学に根ざした非暴力の実践は、貧困、紛争、教育、環境などの課題に対して、真の平和構築に向けた素晴らしい成果をもたらし続けています」と紹介した。また、1991年の和平協定調印後のカンボジアで、「法の巡礼(ダンマヤトラ)」を指揮したマハ・ゴーサナンダ師にも言及し、「分断された人々に調和をもたらしたのみならず、広く平和を脅かしている森林破壊や地雷問題の解決に大いに貢献した」と評価した。『正義は殺さない/死刑制度の廃止』と題する分科会では袴田秀子さんが、元死刑囚だった弟の袴田巖さんの冤罪(えんざい)を晴らし、無実へと導いた長い司法との闘いについて証言し、聴衆の心を動かした。
全ての分科会を終えた参加者たちは、ローマ市内の各地で「宗教別の祈り」を捧げ、古代史跡のコロッセオとコンスタンチヌス帝の凱旋門を背景に執り行われた閉会式に臨んだ。式典では、教皇レオ14世が「世界が平和を渇望している」と指摘し、「世界は、職権の乱用、武力の誇示、人権に対する無関心に終止符を打つための、真で確固とした和解の時期を必要としている」と訴えた。さらに、「今日、われわれは、平和に対する確固たる意思を表示するのみならず、真の和解の力が祈りにあると主張する」と呼びかけ、「祈らない者は、宗教を乱用し、人をも殺す」と警告した。
閉会式では「ローマからの平和アピール」が発表され、「今は、平和への道を開け広げていくために、あえて行動する時だ」「戦争の結果に苦しむ、数百万人の子どもたち、老人たち、男女たちは、もう待ってはいられない」と訴えている。「戦争を止め、和解の時を開き、武器の製造、武器を使っての恐喝を助長するのではなく、対話を基盤とする安全保障を」——それが、世界の宗教者からのメッセージだ。
【次ページ:ローマ教皇パウロ6世と庭野開祖の出会いを可能としたバチカン宣言文】





