世界の宗教指導者によるAI倫理に関する国際会合が広島で開催(動画あり)
次世代のテクノロジーとして注目され、世界各国で技術開発が進む「AI(人工知能)」。医療や教育など特定の場での活用にとどまらず、スマートフォンの音声アシスタントや掃除ロボットなど人々の生活の中でも身近な存在となっている。
利便性が格段に向上する一方、人間が使う言葉を蓄積してAIに参照させると、人間社会のバイアス(偏見や先入観)がそのまま反映されてしまうといった倫理的な問題も生じている。さらに、世界では、より自律性を高めた「AI兵器」の開発競争が激化。人間の判断を介さずにAI技術を使って無差別に攻撃する兵器システムの開発や使用についての国際ルール作りは進んでいない。
こうしたAIを取り巻く現状を認識し、「アルゴレシックス(アルゴリズムにおける倫理的開発)」を促進するため、教皇庁生命アカデミーは「AI倫理のためのローマからの呼びかけ」を発表。AIに対する倫理的なアプローチを育成し、国際組織、政府、企業間で人間を中心としたデジタル刷新と技術改革を促進していくための責任を共有するよう訴え、署名運動を展開してきた。
2020年2月28日には、EU議会議長出席のもと、同アカデミー、マイクロソフト、IBM、国連食糧農業機関(FAO)、イタリア政府による署名式がバチカンで行われた。23年には、アブラハム信仰(ユダヤ教、キリスト教、イスラーム)の指導者による署名もなされた。
「ローマからの呼びかけ」へのさらなる賛同の輪を広げるため、同アカデミーと世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会、アラブ首長国連邦のアブダビ平和フォーラム、イスラエル諸宗教関係首席ラビ委員会の4団体が共催し、7月9、10の両日、広島市内の平和記念公園内に位置する広島国際会議場で国際会合「平和のためのAI倫理:ローマからの呼びかけにコミットする世界の宗教」が開催された。日本を含む13カ国から宗教指導者や学者、研究者ら150人が参加。立正佼成会から、WCRP/RfP日本委員会理事を務める庭野光祥次代会長が出席し、和田惠久巳総務部長、根本昌廣参務らが同席した。
9日、共催団体と日本政府の代表者によるあいさつで開会した。この中で、「ローマからの呼びかけ」への署名運動を主導する同アカデミー会長のヴィンチェンツォ・パリア大司教は、人類史上初の都市に対する核攻撃が行われた広島の地で、現代の最先端技術であるAIについての会合が開催される意義を強調。「テクノロジーが最も暴力的で破壊的な顔を見せたここ広島から、AIシステムを人類の幸福のために奉仕するものとして使われるよう、平和と正義を実現しなければなりません」と訴えた。その上で、宗教が重要な役割を果たす必要があると述べ、会場に参集した宗教指導者、さらには政府関係者、学者、技術者に向けて団結を呼びかけた。
また、日本の岸田文雄首相がビデオメッセージを寄せ、「多様性を尊重しつつ、心を一つにして、安全安心で信頼できるAIに向けて取り組んでいきましょう」と激励した。
この後、教皇庁立グレゴリアン大学技術倫理学教授のパオロ・ベナンティ神父が「生成AI」に関して講演。次いで、AIの国際規制における国連の取り組みを、国連事務総長技術特使を務めるアマンディープ・シン・ギル氏が報告した。
続くセッション1「科学の知見」では、共催団体の一つ、イスラエル諸宗教関係首席ラビ委員会のラビ・アヴラハム・ステインバーグ教授をモデレーターに、国際平和や理論物理学などを専門とする3人の教授が、AIのリスクや可能性について提言した。
セッション2「理論から活用へ」では、米国に本社を置くIBM、Cisco、マイクロソフトの3社の代表者がAIの可能性や応用について発言。マイクロソフトからは、ブラッド・スミス社長が登壇した。スミス社長は、AIの恩恵は全ての人にもたらされなければならず、それは「21世紀の人権」であると言及。生活を便利にする扇風機や掃除機などの電気製品を利用できるのも、テクノロジーを発展させてきた結果であり、AIに関しても開発の可能性を否定してはならないと主張した。
その上で改めて、原子力は兵器として使われたがAIは兵器となってはいけないと強調。79年前の広島と長崎での惨劇から人類は一度も原子爆弾を使用していないとし、それは、人々が懸命に倫理を守ってきたからであると述べ、今回の会合を機にAIに関しても共通善を見いだしていくことが重要と訴えた。人類家族が共に将来を見据え、この技術を有効活用していかなければならないと呼びかけた。
午後には、AIの管理について話し合うセッション3、AI倫理に関して世界の諸宗教指導者が意見交換を行うセッション4が行われた。