教皇特使の米国訪問(海外通信・バチカン支局)

ウクライナ和平交渉に向けた調停に余地を見いだせない状況の中で、バチカン外交は人道問題を中心に据えて平和に向けての“雰囲気づくり”に挑戦している。6月には、教皇特使のマテオ・ズッピ枢機卿(伊カトリック司教会議議長、聖エジディオ共同体指導聖職者)がキーウとモスクワを訪問し、両国の政治、キリスト教の指導者たちと面会した。

バチカン報道官のマテオ・ブルーニ氏は7月17日、ズッピ教皇特使がバチカン国務省の係官と17日から19日までワシントンを訪問すると公表した。「ウクライナ和平の促進という視点から、悲劇的なウクライナ情勢に関する見解と意見を交わし、より被害を受け、より傷つきやすい人々、特に子供たちの苦しみを軽減していくための人道分野におけるイニシアチブを支援する」ことが訪問の目的と説明された。ホワイトハウスも17日、「翌18日にバイデン大統領がホワイトハウスでズッピ教皇特使を歓迎する」とする声明文を発表した。

当日、バイデン大統領とズッピ教皇特使はホワイトハウスで約2時間にわたり懇談した。ホワイトハウスが終了後に公表した「リードアウト」(声明文)は、両者が「ウクライナで続くロシアの攻撃が生み出す、広範囲にわたる苦しみに対する聖座の人道支援」「ロシアに強制収容されているウクライナ人の子供たちの帰国に関するバチカンの努力」について話し合ったとだけ明かした。

バチカンが19日に発表した声明文は、ズッピ教皇特使が17日に米国カトリック司教会議議長のティモシー・ブロイオ大司教と会い、「ウクライナ侵攻、戦争犠牲者と平和に関する聖座のイニシアチブ」について話し合ったと説明。18日朝には、米国政府の「欧州安全保障と協力委員会」(ヘルシンキ委員会)のメンバーと面会し、「ローマ教皇フランシスコが託した使命とその遂行方法について話し、それをどう効果的に実行できるかについて議論した」とも記した。

同日午後に行われたバイデン大統領との会見では、教皇特使が教皇からの親書をバイデン大統領に手渡し、ウクライナ侵攻に対する教皇の苦しみを伝えたと明かした。そして、両者が懇談を通して「人道分野におけるイニシアチブを支援すること、特に子供やより傷つきやすい人々を念頭に置いた緊急支援を促進、展開していくことで合意した」と伝えた。

最後に、教皇特使は19日、米国上院議会で開催された「祈禱(きとう)朝食会」に出席。この中で、参加者たちに「ウクライナ、モスクワで体験したことについて説明する機会を得た」とのことだ。

ほとんど不可能とも思える和平調停の中で、平和に向けた「一条の光明」を求めて外交活動を展開するバチカンだが、イタリアの複数メディアは、「教皇特使の次の目的地は北京」と報道し始めた。中国は、バチカンといまだ外交関係にない。司教の任命権に関する暫定合意はあるものの、最近では中国政府がバチカンに許可なく上海の司教を任命し、それをバチカン側も認めざるを得ない状況に追い込まれた。中国政府を含めたウクライナ和平の追求も容易ではない。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)