第40回庭野平和賞 インド平和活動家のラジャゴパール P.V.氏に
「第40回庭野平和賞」の受賞者が、インドの平和活動家であるラジャゴパール P.V.氏(74)に決まった。公益財団法人庭野平和財団(庭野日鑛名誉会長、庭野浩士理事長)は2月16日、京都市内のホテルで記者会見を開き、席上、庭野理事長が発表した。
ラジャゴパール氏は、非営利団体エクタ・パリシャドを創立し、貧しい人々の尊厳と権利を取り戻すため、問題の関心を喚起する大規模な徒歩行進を先導。先住民や不可触民を含めた農村部の住民の権利、環境保護、土地改革などを訴えている。その非暴力に徹した社会活動は、マハトマ・ガンジーの思想を基に展開され、虐げられてきた人の救済と自立を成し遂げてきた。贈呈式は5月11日に行われ、賞状と顕彰メダル、賞金2000万円が贈られる。
非暴力に徹した社会活動を展開
庭野平和賞は、宗教的精神に基づいた世界平和の推進に顕著な功績をあげた個人や団体に贈呈される。世界125カ国の学識者や宗教者ら600人が推薦した候補の中から、庭野平和賞委員会の審査を経て選ばれる。
ラジャゴパール氏は1948年、南インドのケーララ州生まれ。父親は、マハトマ・ガンジーと共にインドの独立運動に挺身(ていしん)した。ガンジーは「非暴力」「不服従」に徹し、欲を捨て去り、他者の幸せのために運動を続け、インド独立の立役者となった人物。ラジャゴパール氏は幼少期からガンジーの思想を実践する人々に囲まれて育ち、自らにもその精神が養われていった。
1970年、武装盗賊団(ダコイト)によって暴力がまん延している地域に共同体の仲間と共に赴いた。ダコイトのメンバー約560人に対して、武器を持たずに暴力の無意味さを説き続けた結果、投降させることに成功。社会復帰の手助けも担った。その体験を振り返りラジャゴパール氏は、「『非暴力』という手段を深く理解し、エゴを交えずに正しく用いさえすれば、非暴力は世界のあらゆる場所で、暴力に満ちた状況を改善する強力な手段になり得る」と語る。
約14億人が暮らすインドでは、国際貧困ラインの1日約1.9ドル以下で生活する人が1億7000万人以上いるとされ、世界の貧困層の4分の1を占める(2015年、世界銀行)。その多くが農村部の住民で、カースト制度の歴史も根強く、かつては今よりもさらに貧困層の割合が多かった。ラジャゴパール氏はその状況を打開するため、1980年から青少年育成に尽力。青少年たちに非暴力による社会活動への参加を促すとともに、弱い立場の人たちが自身で立ち上がるための智慧(ちえ)と希望を伝えていった。そうした活動によって、インド全土で地域の共同体を統率する青年リーダーが育っていった。
貧しい人々の尊厳と権利回復のため奔走
さらに89年、自身の土地を不当に取り上げられ、疎外された地域住民を擁護すべく、25万人の小作農民が参加する非営利団体エクタ・パリシャドを創立。彼らの地権と生活資源の保証を政府に訴えるため、大規模な徒歩行進(フットマーチ)に挑んだ。これまでに、青年リーダーと協力しながら多数の行進(2020年はコロナ禍により中断)を実施し、07年には2万5000人、12年には10万人が数百キロの道のりを行進した。その動向はメディアや国民から注目され、300万人の区画地や農地の獲得、土地改革政策の合意などに至った。
このほかにも、三大陸、30カ国を訪問し、ガンジーの精神を世に広めるとともに、他国と協力して平和活動を推進してきた。
これらの功績から、「N.A.カリム賞」「第29回インディラ・ガンディー国民統合賞」「スピリット・オブ・アッシジ・ナショナル・アワード」を受賞。現在は、研究、書籍の出版、研修を通じて非暴力を推進する「非暴力と平和のための国際ガンディー主義イニシアチブ」の専務理事を務める。
庭野平和賞委員会は、ラジャゴパール氏の“積極的行動主義”を称揚。土地や大衆に密着し、貧困に苦しむ人々に寄せる深い慈愛と、非暴力による社会変革への類まれなる献身に讃嘆(さんたん)の意を表し、庭野平和賞の贈呈を決定した。