【NPO法人「明るい社会づくり運動」理事長・秋葉忠利さん】広島市長の経験生かし 明社と平和運動の橋渡しを
前広島市長の秋葉忠利氏が、NPO法人「明るい社会づくり運動」(明社)の理事長に7月1日付で就任した。秋葉氏は、世界のジャーナリストを広島・長崎に招待し、被爆の実相を伝えてもらう「アキバ・プロジェクト」をはじめ、長年にわたり平和運動に尽力。市長在任中は市政に尽くすとともに、広島・長崎が中心となって世界の都市と連帯して核兵器廃絶を目指す「平和市長会議」(現・平和首長会議)の会長も務めた。市民運動の役割、明社の目標や今後の活動について話を聞いた。
非暴力化の歴史を歩む人類 そこに希望を持って行動を
――「明るい社会づくり運動」の理事長に就任し、どんな思いですか
大変光栄に思いますし、責任重大だと感じています。2年ほど前から理事を務め、理事会を通して全国の会員の皆さんの活動に触れてきました。議論が活発で、前向きな姿勢がとても印象的です。
理事長に就任後は、各地の活動に参加し、具体的なお話を伺えればと思っていたのですが、新型コロナウイルスの影響でかなわず、とても残念です。私が貢献できそうなこととしては、過去に学んだITの知識の活用や、明社と平和運動の橋渡しができれば面白いのではないかと考えています。
――広島市長として核兵器廃絶を訴えるなど長年、平和運動に取り組み、今、感じていることは?
世界から紛争がなくなったわけではありませんが、人類の歴史を大局的に見ると、時代を経るごとに暴力が減り、より平和になってきています。非暴力化の歴史とも言え、これは人類にとって希望です。ですから、この趨勢(すうせい)を捉えて、一人ひとりが平和に向けて何をすべきかを前向きに考え、行動することが大切だと感じています。
私が平和運動に関心を持つようになったのは、小学生の時、広島に投下された原爆の悲劇を伝える映画『原爆の子』を見たのがきっかけです。核兵器の非人道性を伝える、こうした人々の努力によって、原爆は75年間、一度も使われていません。また、さまざまな統計があるのですが、一例としてロンドンの人口10万人当たりの殺人件数は、12世紀ごろから概(おおむ)ね右肩下がりです。日本でも、戦国時代には国内で日本人同士が戦っていましたが、今はあり得ない。DV(家庭内暴力)もようやく暴力と認識され、学校では体罰をなくす取り組みが進められてきました。
非暴力化の歴史に詳しい米国の心理学者スティーブン・ピンカーによると、暴力が減ってきた背景には、国が統一されて内戦が減ったこと、男性的価値観が優位の社会に女性的価値観が入り社会全体の価値観が変化したこと、国を跨(また)ぐビジネスと貿易が活発になり、文化や社会の多様性への理解が深まったことなどがあります。特に平和に向けて知性が確立されてきたことが大きいというのです。
私たちが理性的に物事を判断し、歴史や現在の事実をしっかりと受けとめて行動していけば、非暴力化は続いていくでしょう。
――平和運動、市民運動の可能性についてどのように考えますか
かつて原水爆禁止世界大会で通訳をしていた頃、仕事と家庭の両立に追われていた同僚の女性たちが、よく「世界の平和は家庭の平和から」と話していました。それは、「足元が平和でなければ、世界平和は実現しない」という考えと同じことです。
市長になってからは、その「足元」の具体化として、「世界の平和は都市から始まる」と考えるようになりました。「都市」は「地域」とも言い換えられます。都市や地域の力が集まると、国を動かすこともできるはずです。
1980年に英国のマンチェスター市が「非核自治体運動」を始めました。「平和首長会議」とほぼ同じ時期です。これを機に、世界の各自治体が非核宣言を行い、「非核宣言自治体」が連帯して核兵器廃絶を目指す流れが広がりました。近年、この取り組みが大きな意味を持つ出来事がありました。
2014年に英国で、スコットランド独立の是非を問う住民投票が行われたのを覚えていますか。実は、独立の目的は核兵器の廃絶にありました。スコットランドは1999年に自治権を得ていましたから、残る権利は予算と防衛で、防衛では核兵器廃絶を選択しようとしていました。なぜなら、スコットランドの全都市が非核宣言自治体になっていたからです。
結果として独立には至りませんでしたが、全自治体が非核宣言自治体であった場合、独立して非核国になるというのは、ごく自然な流れです。仮に世界中の全ての自治体が非核宣言をすれば、核兵器は存在しなくなるのです。
市民と自治体は密接な関係にあり、大きな信頼感が生まれやすいのが特徴です。それを、市民の思いと国の関係、市民の願いと世界の関係にまで広げていくことが大事だと市長の時に肌で感じました。明社でも、この経験を基に、そこに暮らす人々と地域とをつないで社会に貢献すると同時に、世界の平和にもつながる活動を進めていければと願っています。
【次ページ:「ほっとけない」社会を築いて かけがえのない生活と命を守る】