戦争は政治と人類の敗北――コロナ後の世界に向け教皇が新回勅(3) 海外通信・バチカン支局

新回勅の署名に臨むローマ教皇フランシスコ(バチカンメディア提供)

ローマ教皇フランシスコが10月3日、イタリア中部アッシジにある聖フランシスコの墓前で新回勅『すべての兄弟たち 友愛と社会的友情に関して』に署名した。

第5章から第8章までを紹介

ローマ教皇フランシスコが新回勅の第5章で説く「より良い政治」とは、汚職や役割の放棄、権力の悪用、法順守の欠如を拒否し、人間の尊厳性を中核に据えた「金融に隷属しない政治」を指す。過剰な投機によって生じた過去の“大惨事”に触れ、「市場によって全ての問題を解決することはできない」と明示した。

さらに教皇は、「人民運動」を「社会的詩人」「道徳エネルギーの迸(とばし)り」とたたえ、さまざまな運動の間をより良く調整して、社会、政治、経済の分野に参入するよう奨励している。教皇の指摘する「人民運動」とは、キリスト教の社会理念に沿って共通善(公共の利益)を追求していくカトリック信徒たちの政治運動だと推測される。彼らが社会、政治、経済の分野で積極的に活動することを奨励する。

また、世界の経済規模が巨大になり、その優位性が一国の(政治)権力を凌駕(りょうが)して、政治の機能を喪失させている状況に憂慮を表し、「国連改革」を提唱する。これは、共通善の実現に向けて、貧困の解消と人権の擁護を促進しながら、“国家家族”という概念に確実性を与えるものだという。より弱い国家を保護すべき多国間合意を促進することで、市場経済による力の論理を克服し、「(国際)法の力を推進していく国連」であってほしいとの願いからだ。

『対話と社会的友情』をテーマとする第6章は、「(人間)生活が全ての人との“出会いの芸術”である」と説く。現在の社会で、都市から遠く離れた地に住む人々や自然と共に暮らす先住民、さらに社会の底辺に置かれた人々は軽視されがちだが、人は「全ての人から学ぶことができ、一人として不要な人間はいない」と唱える。そして、「対話」とは、他の人の視点、関心事、特に人間の尊厳性という真理を尊重するものであり、「相対主義は解決とならない」と訴える。なぜなら、内在する悪を禁じる普遍的な原則や道徳的な規範がなければ、法律が人為的な強制となってしまう危険性が常にあるからだ。加えて教皇は、対話と社会的友情の実現に向けて、「優しさが引き起こす奇跡」を強調する。優しさが「暗闇の中の明星」であり、「優しい人は健全な共存を構築し、絶望が橋を倒壊させる所に道を拓(ひら)く」と説明している。