新型コロナウイルスの感染拡大とイスラーム/サウジアラビアとイランの対処(海外通信・バチカン支局)
サウジアラビア外務省は2月27日、「新型コロナウイルス(COVID-19)」の感染者が増加している国からのムスリム(イスラーム教徒)の巡礼者や観光客に対し、ビザの発給を一時的に停止すると発表した。
同国内では感染者は確認されていない。同外務省は、ビザ発給の停止に該当する国名、停止期間を公表しない方針で、7月末から始まるメッカ巡礼(ハッジ)への影響が懸念されている。
同国が懸念する理由として、数百万人のムスリムが参集するハッジの期間中に感染症が拡大し、多数の犠牲者が出た歴史がある。632年には、ハッジ中にマラリアが蔓延(まんえん)。1821年、65年にはコレラが発生し、合計約3万5000人が犠牲となったと伝えられる。近年では、2012年に中東呼吸器症候群(MERS)発生の危険性が指摘されたが、サウジアラビア政府による感染予防対策で犠牲者は出なかった。
現在、中東地域での新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されている。中でも、イランでは3月1日現在、感染者数が約1000人、死者は54人に上る(同国保健省調べ)。同国政府は、中国やイタリアのような「感染区域の封鎖」ではなく、「感染者個人の隔離」という政策をとった。
イランで感染者が確認されたのは、イスラーム・シーア派の聖地コムであり、毎年、世界各国から数百万の信徒が参集する場所だ。同国政府は、信徒たちに衛生対策の徹底を指示しているが、聖域や礼拝所、神学校は閉鎖されていないという。
コムには、アフガニスタン、バーレーン、イラク、クウェート、オマーン、パキスタンなどからムスリムが参集するため、感染の拡大が憂慮される。さらに、米国のトランプ政権によるイランへの厳しい経済制裁などにより、国の医療システムが感染対策に対処できていないとの指摘もある。
イランでは2月27日、コムやテヘランなど国内23都市で金曜日の礼拝を中止するよう呼び掛けられた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)