バチカンから見た世界(81) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

イスラームの祝祭日に合わせ、人類の友愛を実践する諸宗教者

6月上旬にイスラームのラマダン(断食月)が終わり、世界のムスリム(イスラーム教徒)たちが「断食明けの祝祭日」(イド・アル・フィトル)を祝った。

これは、ムスリムにとって最も重要な宗教行事の一つとされ、家族や親族が一堂に会して執り行われる。今年はその中で、イスラーム・スンニ派の最高権威機関「アズハル」(エジプト・カイロ)のアハメド・タイエブ総長とローマ教皇フランシスコがアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで署名した、「人類の友愛に関する文書」の精神をムスリムとキリスト教徒が共に実践することを伝える報道が世界の各地でなされた。

エジプトでは、コプト正教会が「イスラーム国」(IS)を名乗る過激派の系列組織からテロ攻撃を受けてきた。その最高指導者である第118代アレキサンドリア教皇タワドロス二世は6月1日、使節団を率いてアズハルを訪問。タイエブ総長に「断食明けの祝祭日に際しての祝意」を伝えるとともに、タイエブ総長をはじめ全てのイスラーム教徒の健勝を祈り、エジプトと同国民の安全を願った。

これに対してタイエブ総長は、「こうした宗教行事を通しての交流が、祖国の人々の間における兄弟的関係との一致を反映している」と応えた。両指導者間における懇談には、同国のムハンマド・ムフタール・グムア宗教財産(ワクフ)相やアズハル大学のムハマド・アルマシャルサウィ学長らも同席した。

一方、二度にわたる戦争と、国際テロ組織のアルカイダやISが標榜(ひょうぼう)する聖戦主義によって破壊し尽くされたイラクでは、カルデア派カトリック教会の最高指導者であるルイス・サコ枢機卿(バグダッド大司教)が、断食明けの祝祭日にかけてメッセージを発表。「人類としての兄弟である全てのイスラーム教徒に対して、最も誠実な祝意と、より良い未来を願う」とし、「神がイラク国民と国を守ってくださるように」と願った。