バチカンから見た世界(77) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

「平和を望み、促進し、その道具となるために集まった」に込められた教皇の決意

ローマ教皇フランシスコは2017年4月、エジプト・カイロにあるイスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」でアハメド・タイエブ総長によって企画された「平和のための国際会議」に出席した。その席上、スピーチに立った教皇は、「暴力は全ての宗教性を否定するもの」であり、「利己主義を絶対化して『聖』を名乗る――その暴力の仮面をはがしていくように」と語った。

この国際会議から2年が経とうとしている。この間、「イスラーム国」(IS)を名乗る過激派組織は支配地域を失い、世界各地で単独でテロを起こす「一匹狼」と呼ばれる攻撃に戦略を変えてきたが、タイエブ総長と教皇はイスラームとキリスト教間における和解を推進して、宗教を暴力の道具とする過激派に対抗。さらに、両指導者は「人類の友愛」を基盤とした世界平和の構築に向けてさらなる協力の推進に動き始めた。

「イスラームとの対話が世界平和の構築に向けて決定的な要因となる」――バチカンは、この教皇の発言に沿って行動してきた。イスラーム・シーア派とも同じ路線で対話していくものと推測されている。

こうした中、教皇は、アラブ首長国連邦(UAE)・アブダビで「ムスリム長老評議会」(議長=タイエブ総長)が主催して2月3、4の両日に行われた「人類友愛のための国際会議」に出席。イスラーム発祥の地である「アラビア半島の全ての国に対し、友愛と尊敬に満ちた心からのあいさつ」を送りながら、各国から集った700人の諸宗教指導者らに対し、「私たちは、平和を望み、促進し、その道具となるために集まった」と語り掛けた。

「人類友愛のための国際会議」は3部で構成された。一つ目は、暴力や一民族優先の過激主義によって支配される地域における平和文化の促進を模索する『友愛の理念』について。二つ目は、世界平和の構築に向けた東洋(イスラーム圏)と西洋(キリスト教圏)の間における協力の絆を強化し、追求する『人類友愛を実現に向けた共通の責務』について。三つ目は、利己主義、宗教的不寛容、憎悪といった暴力の源泉に対し、人間の良心と宗教倫理によって人々を共により良い方向に促す『人類の友愛――課題と機会』についてだ。