バチカンから見た世界(71) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
ポピュリズムの拡大と憎悪による犯罪の増加
バチカンの国連常駐代表を務めるベルナルディト・アウザ大司教はこのほど、ニューヨークの国連本部で行われた人種主義や人種差別、外国人への不寛容を考える会合において、「政治家たちが人々の恐怖を憎悪に向けて扇動しないように」と訴えた。
世界では、特定の民族、国家に属する人や、特定の宗教アイデンティティーを有する個人、グループに対して疑念、恐怖、軽蔑、憎悪という感情を抱くような動きが広がっており、「そうした感情がしばしば、不寛容、差別、排除といった行動の源泉になっている」からだ。また、政治についても触れ、一部の政治家たちが目先の選挙を有利にするために、民衆の不安や怒りをあおり、利用しようとしているとも指摘した。
こうしたポピュリズム政治と言われる動きは、米国のトランプ政権のほか、イタリア、オーストリア、ハンガリー、ポーランド、他の旧東欧諸国の政権で見られる。さらにドイツ、フランスでも勢力を伸ばしている。アウザ大司教の発言は、ポピュリズム政治、政権に対する非難であることは確かだ。
現在見られるポピュリズム政治の多くは、自国第一主義、白人至上主義を掲げ、宗教的にはキリスト教原理主義の立場を取り、政治的には極右勢力と結びついて、有色人種、特にムスリム(イスラーム教徒)の移民を排斥している。彼らポピュリストは、常に「敵(政敵)」を設け、その敵を過激な言動で攻撃する手法を取り、社会の分断も辞さない。