バチカンから見た世界(69) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
金融が偶像となる時――経済のあり方に警鐘を鳴らすローマ教皇
イタリアでは3月の総選挙後、大衆の願望や不安を利用して扇動するポピュリズムの政権が誕生した。その中核を成すのは、政党「五つ星運動」だ。
総選挙では、当時の政権に対して「反体制派」を唱えて大きく票を伸ばした。連立を組み政権の座に就いた今は、停滞してしまったイタリア経済の再建のため、あらゆる公共事業を拒否する政策を実行している。かつての「体制派」による公共事業が、汚職や腐敗の原因となっていたからだ。2024年の夏季オリンピック開催地としてローマの立候補を支持せず、南フランスのリヨンと北イタリアのトリノを結ぶ鉄道の高速化に反対し、カスピ海から南イタリアに天然ガスを送るアドリア海横断パイプラインの建設事業も拒否している。最近では、小売店やスーパーマーケットの日曜開店を認める政策を批判し、規制する構えだ。選挙戦中に公約した、国民に一定額の所得を保障する「市民所得」を、国が抱える膨大な赤字を無視して、何としてでも来年度の予算案に繰り込もうとしている。
9月15日付のイタリアの有力紙「コリエレ・デラ・セラ」は1面の論説記事の中で、公共事業を拒否する五つ星運動のイデオロギーを次のように分析し、批判した。五つ星運動の「背後にある理念は、もう、(国の)富は、労働によって築かれるものではないというものだ。金は、金によって儲(もう)ける。金はある。どこにあるかを見いだし、持っている者から取り上げ、再分配すれば良いというイデオロギーだ」と。五つ星運動のイデオロギーが、実体経済を無視し、金融のみに依存している、という批判なのだ。