宗教が葬儀に関わる意義とは 国際宗教研究所と上智大が公開シンポジウム
葬送儀礼と宗教の関わりを考える公開シンポジウムが2月24日、上智大学(東京・千代田区)で行われた。主催は、公益財団法人「国際宗教研究所」と同大学グリーフケア研究所。当日は、『記憶の場としての葬儀――その宗教性と非宗教性の境界』をテーマに議論され、約100人が参加した。
高度経済成長を経て、日本では葬儀から宗教色が薄まり始めた。近年は、散骨や自然葬のほか、通夜や告別式を行わず、直接火葬場に遺体を運んで火葬をする直葬が増えるなど、一層“宗教離れ”が進んでいるといわれる。故人に対する記憶を新たにする場としての葬儀に、宗教が関わるか否かでどのような違いがあるかを議論し、宗教や宗教者の役割を考えるために、今回のシンポジウムは開催された。
当日は、長野市にある長谷寺(真言宗智山派)の岡澤慶澄住職、神習教の芳村正德教主、公益財団法人「東洋哲学研究所」の大西克明研究員、大塚マスジドのクレイシ・ハールーン事務局長が発表。それぞれの宗教における葬儀や信仰的な意味合いを報告した。
この中で岡澤師は、故人の生涯をたたえる嘆徳文や、戒名を作成するために、遺族に故人の人となりを聞き取る行為は、故人の記憶を呼び覚ますのみならず、大切な人を失った悲嘆を分かち合う“語り合いの場”にもなると説明。また、司式者として焼香を促す際、「ありがとうの気持ちを込めて」と一言添えるだけで、参列者に故人との思い出が呼び起こされ、葬儀の場がより一層心のこもったものとなり、そうした様子が遺族の慰め、励ましにもなると語った。
また、イスラームにおける葬儀について報告したハールーン事務局長は、死去から埋葬に至るまでを写真を交えて紹介した。この中で、遺体を洗い清める行為や、埋葬する際の遺体を包む白い布の用意などは、全てムスリム(イスラーム教徒)による無償の互助によって行われると詳述。これは、葬儀への参加には「神による報奨がある」と教義で定められているからであり、死者に気持ちを向ける姿勢は、「ムスリムが一日に5回行う礼拝の中でも、神や自分だけでなく、社会、そして亡くなった人のために祈るという部分にも表れている」と述べた。
この後、国際宗教研究所の井上順孝常務理事(國學院大学教授)、三木英常務理事(大阪国際大学教授)を加えて全体討議を実施した。この中で、宗教の違いにかかわらず、葬儀では故人の生涯に物語性を見いだし、これをたたえるという形で「宗教的価値付与」が行われていることを確認。加えて、縁者が一体となって故人を送り出す一連の儀式の中で、それぞれが故人に対する記憶を想起し、分かち合われることで、遺族の悲嘆に寄り添う役割も担っているとの理解を共有した。