【特別インタビュー 第34回庭野平和賞受賞者 ムニブ・A・ユナン師】 聖地エルサレムで、諸宗教対話による平和の実現に尽くす

「第34回庭野平和賞」受賞者のユナン師

「第34回庭野平和賞」を受賞した「ルーテル世界連盟」(LWF)名誉議長で、「ヨルダン及び聖地福音ルーテル教会」(ELCJHL)監督のムニブ・A・ユナン師(67)へのインタビューが7月27日、東京・港区の国際文化会館で行われた。聞き手は庭野平和財団の庭野浩士理事長が務めた。同師はキリスト教の信仰を基に、全ての人に慈しみの心で接し、諸宗教対話を通して中東和平の実現に尽力。当日は、エルサレムの状況とともに、平和教育と宗教者の役割、諸宗教対話・協力の可能性になどについて話を聞いた。(敬称略)

聖地に続く紛争 対立から調和へ

庭野 ユナン師はパレスチナ難民のご両親のもとに生まれ、ご自身も難民の当事者であります。対立する民族の融和を求め、長年、エルサレムで諸宗教対話に取り組んでこられました。第34回庭野平和賞贈呈式でお会いし、全身全霊でお話しになる迫力に私は心が震え、感動いたしました。今日は、さらに学ばせて頂ければと存じます。現在のエルサレムの状況から教えて頂けますか?

ユナン 非常に良くない状況が続いています。来日直前の2週間を見ても、戦いの連続でした。暴力が暴力を生み、報復がさらなる報復を招くという状態です。

ユナン師にインタビューする庭野理事長

最近の出来事(7月下旬)で言えば、イスラエル人警官3人がイスラエル国籍のパレスチナ人に銃撃されたのを機に、イスラエル治安部隊がアルアクサ・モスク(イスラーム礼拝所)のある聖地「ハラム・アッシャリフ」(ユダヤ教徒にとっても聖地「神殿の丘」で、「嘆きの壁」がある)の入り口に、ムスリム(イスラーム教徒)に対する金属探知機を設置しました。これに対し、多くのパレスチナ人が「聖地の占領化」と抗議活動を行いました。治安部隊との衝突が起き、死傷者が出てしまいました。

ユダヤ教、キリスト教、イスラームの最高指導者と協力して創立した「聖地宗教評議会」(CRIHL)は、パレスチナ人の主張を支持しました。なぜなら、ムスリムに対する金属探知機が設置されれば、聖地で長年築かれてきた「お互いに平等である」という伝統が壊されるかもしれないと感じたからです。聖地は、争いや対立によって侵されてはならず、セキュリティーを名目に、対立を助長するようなことがあってはなりません。祈り、瞑想(めいそう)する、信仰の場所なのですから。

しかし、残念ながら、エルサレムでは、今この瞬間も紛争が続いています。

【次ページ:宗教戦争を招く過激主義者の意図に乗ってはならない】