難民を受け入れる新たな道筋を WCRPとJAR「シリア難民留学生受け入れ事業」 5年間の成果と課題
世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会と認定NPO法人難民支援協会(JAR)が共同で取り組んできた「シリア難民留学生受け入れ事業」の成果報告会が昨年12月11日、オンラインで行われた。
シリアでは2011年に内戦が勃発。認定NPO法人国連UNHCR協会によると2019年末現在、人口の6割に当たる1220万人が国内外に避難した。特に、隣国のトルコには280万人が逃れ、このうち高等教育の機会を得られない若者は50万人以上に上る。こうした状況に対し、WCRP/RfP日本委とJARは2017年から、シリア難民を留学生として受け入れ、日本での定住につなげる事業を実施。民間主導による日本初の取り組みで、同事業は現在、JARの協力を得て昨年7月に設立された一般財団法人パスウェイズ・ジャパンに移管され、継続されている。
報告会は、事業の成果と課題を確認し、今後の取り組みに生かすために開催された。パスウェイズ・ジャパン代表理事の折居徳正氏は、5年間で31人(新型コロナウイルスの感染拡大による来日待ちを含む)を受け入れてきたことを紹介し、日本語学校を卒業した留学生は6人が大学に、1人が大学院に進学し、2人が企業に就職している現況を伝えた。「難民という背景がある方々を日本に迎え入れ、社会の一員として活躍してもらう道が開けた」と述べ、難民認定率が極めて低い日本で、難民を保護する新たな道筋を示せたと同事業の意義を強調した。
留学生からは同事業への感謝の思いが語られた。内戦の影響により母国で大学を卒業できずに難民となった後、一昨年4月に来日した男性は、日本の大学で理学療法学を学び、将来は病院で技術を修練したいとの抱負を発表。「いつか医師の兄と一緒にシリアに病院を建てたい。こうした夢を持つことができたのも、全て支援のおかげです」と語った。
一方、課題も指摘された。折居氏は、日本語学校に通う2年間で、大学受験に必要な日本語の能力と試験科目の学力を身につけ、さらに、生活のためにアルバイトと両立しなければならない大変さを挙げた。
留学生からは、来日後に初めて経験する日本社会への戸惑いも報告された。第1期生として17年3月に来日した女性は、アラブ系の外国人への警戒心からか、近所の人からなかなかあいさつをしてもらえず、近所付き合いに悩んだこと、ムスリム(イスラーム教徒)の義務である一日5回の礼拝を行う場所と時間を確保しにくく、大学と相談して礼拝室をつくってもらったこと、「テロ」と関連付けられた先入観や偏見でイスラームを捉えられ、コミュニケーションに難が生じたことなどを挙げた。この経験から、来日前に日本語のほか、日本の文化や社会状況を学び、来日後は日本人と交流する機会を積極的につくることが大切と語った。
報告会では、4年間で13人の留学生を受け入れてきた日本国際工科専門学校の荒川友幸氏もビデオメッセージで発表し、留学生にとって宗教や習慣の違いによる生きづらさがストレスになっていると指摘。シリアOV会の桑田和幸氏は、在留資格を緩和して、難民の受け入れにもっと門戸を広げていくことが望まれると話した。
同事業の5年間の実績を踏まえ、折居氏は今後、奨学金制度を設けて留学生への財的支援を進めたい意向を表明。宗教者やNPOの支援者、専門学校の協力に加え、「大学や企業とのパートナーシップを広げていきたい」との考えを示した。