共に生きる世界、社会をつくるには 識者の提言

2022年を迎え、日本、世界はどうなっているのか。全国の小中学校などで講演活動を続けている環境活動家の露木志奈氏と、昨年に『格差と分断の社会地図』(日本実業出版社)を著した作家の石井光太氏による現状報告と提言です。テーマは『共に生きる世界、社会をつくるには』。

地球環境を守れるか その分岐点に立つ私たち

環境活動家 露木志奈氏

2015年、地球温暖化対策の国際的なルールとなる「パリ協定」が採択された。世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2度以内に保ち、1.5度に抑える努力を定めている。各国では、温暖化の原因となっている二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量をいかに減らしていくかが議論されてきた。

温暖化による気候危機の問題は深刻だ。世界では海面が上昇し続け、各地で干ばつや異常気象などが頻発している。このままでは、人が住める場所が減り、水や食糧が不足して戦争が起きるのではと懸念されている。対策を講じ、行動を起こさなければ手遅れになるという分岐点に今、私たちは立っている。

環境問題に関心を持ったのは、高校時代にインドネシア・バリ島のグリーンスクールに留学し、エコスクールと呼ばれる同校の課外授業で、巨大なごみ山を目にした時。ごみは、島内からだけでなく、他国からも運ばれてきていると知り、ショックを受けた。「大量のごみを出す私たちの生活は、開発途上国の環境破壊、海洋汚染につながっている」「環境問題の原因は自分にもある」と感じた。

ただし、ごみを自国の領土内で処理すれば問題がなくなるわけではない。大量のごみを焼却すれば、大量の二酸化炭素が排出されるからだ。結局、ごみを出さない生活や社会の仕組みが必要になる。

温暖化防止は、ごみだけにとどまらない。牛や豚といった家畜は飼育過程で大量の温室効果ガスを出すほか、肉の大量消費は飼育地や飼料栽培の畑を必要としており、二酸化炭素を吸収する森林の伐採、輸送するための資源エネルギーの大量消費を招く。毎日着ている服についても、海外で大量生産されるファストファッションは莫大(ばくだい)な水やエネルギーを使っている。さらに、膨大な量の衣料品が売れ残って処分されていて、過剰生産・過剰消費・過剰廃棄のサイクルを見直さなければならない。

温暖化を止めるには、社会と個人の両方が変わっていくことが重要だ。理想を言えば、レジ袋の有償化のように、社会システムにエコロジカルな取り組みを組み込んでいけば、人々の行動も自然と環境に配慮したものになる。しかし、実際には、社会システムの変更だけでは十分でなく、消費者が自ら意識を向けて社会を先導していくことも必要ではないかと感じる。それぞれが、できるところから変えていく・取り組んでいくというわけだ。

そうした中で、手軽にできるエコな取り組みの一つとして、電力会社の切り替えを提案したい。家庭から排出される二酸化炭素のおよそ半分は、電力であるため、再生可能エネルギーを利用している電力会社に切り替えるだけで二酸化炭素の排出量を半減させられる。手続きはネットで約5分ででき、一度替えればOKだ。再エネの電力会社の需要が増えれば、化石燃料の使用が減ることになる。

私は現在、全国の小中学校や高校、大学で講演活動を行い、“一人ひとりの行動に意味がある”と伝えている。また、環境問題に取り組む中で、「限られた資源の中で共に生きていくには、何よりも思いやりが大事」と感じてきた。大切な人への思いやりでもいいし、動物が好きなら動物への、自然が好きなら自然への思いやりでもいい。それを持つことで、何を買い、何を食べ、どんな乗り物を利用するか、はたまた選挙で誰に投票するかが決まってくる。他者や世界に思いやりを持つことで、自分が変わり、世界が変わる。(談)

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