【特別インタビュー 第38回庭野平和賞受賞者 昭慧法師】多様性を尊び、分かち合う世界を目指して
「第38回庭野平和賞」を受賞した台湾の尼僧・昭慧(チャオフェイ)法師。全ての生命が尊ばれる世界を願い、動物の保護や人権擁護、男女平等の推進、賭博の禁止、死刑廃止など、さまざまな社会運動に取り組んできた。師である印順導師が説いた「人間(じんかん)仏教」に基づき、現代社会の問題解決を図ろうとするものだ。6月3日、台湾と日本をオンラインでつなぎ、昭慧法師に、庭野平和財団の庭野浩士理事長がインタビューした。テーマは、『多様性を尊び、分かち合う世界を目指して』。30年にわたる取り組みに通底する信念を紹介する。(文中敬称略)
衆生を救う――抜苦与楽の精神で
庭野 昭慧法師は、動物の命を守る運動や男女平等の推進、性的少数者の権利を守る運動、さらにカジノ建設に反対し、人々の健全な生活を守る運動など、多くの社会運動を展開してこられました。多岐にわたるご活動に感銘を受けています。社会運動に取り組むようになったきっかけは何ですか。
昭慧 実は、私は僧侶となった後、仏教学や倫理学の研究者として学術の道を志していましたから、社会運動に取り組むようになるとは想像もしていませんでした。それが、学術論文を発表し始めた頃のことです。当時、動物が人間の娯楽のために痛めつけられたり、動物のいのちが粗末に扱われたりしている光景を目にしました。また、宗教的な面も含め、女性が社会で差別を受けているのを一層強く感じてもいました。その後、台湾でもカジノの建設が議論されるようになりましたが、すでにカジノがある他の地域で、それまで普通の生活をしていた市民がギャンブルにのめり込み、家族が苦しんでいる姿も見ていました。いずれの時も、さまざまな苦しみを見て、私は声を上げずにはいられなかったのです。目の前で起きたことに対して、どうしても行動を起こさざるを得なかったというのが、これまで社会運動に取り組んできた経緯です。
釈尊は、衆生の苦しみを取り除いて楽を与える「抜苦与楽(ばっくよらく)」の大切さを説かれました。仏教は、人を苦しみから救うというのが根本です。私は苦しむ人を見て、それに取り組ませて頂いたにすぎません。生老病死は誰もが避けて通れない苦ですが、社会の問題は、一人ひとりの考え方や制度を変えれば解決できますから、人や動物の苦しみを取り除くために続けてきたのです。
性的少数者への差別に反対するのも同じです。彼らの苦しみは、彼らの中に原因があるわけではなく、周囲の偏見や法律の制限などによるものですから、社会の問題だと思って取り組みました。