一食とJIM-NETによるオンライン事業報告会 長谷部貴俊氏が講演

(Zoomの画面から)

イラクには、二度にわたる戦争で使用された劣化ウラン弾の影響とみられる小児がんに苦しむ子どもが多くいる。本会一食平和基金は、そうした小児がん患者に適切な医療サービスなどを提供する特定非営利活動法人JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)の活動を支援している。6月25日、『「イラク・バスラにおける、小児がん・白血病患者支援」報告』と題して、「オンライン事業報告会」が、一食平和基金とJIM-NETの共催で行われた。これは、3月に開かれた、パレスチナ・ガザ地区での人道支援に関する報告会(既報)に続く2回目の開催。当日は、JIM-NET海外事業担当の長谷部貴俊氏が、支援の現状や活動に込めた願いを語った。

長谷部氏は冒頭、イラクの社会情勢などについてスライド写真や動画を用いて紹介。その中で、米国が始めた1991年の湾岸戦争と2003年のイラク戦争によってインフラや経済が打撃を受け、治安が悪化し、生活困窮者が激増したと説明した。特に、湾岸戦争前まで欧州と同じように高いレベルにあったイラクの医療が、医師などの死亡や国外脱出、医療設備や医薬品の焼失によって崩壊し、改善されないままにある状況は深刻で、「慢性的な医師・医薬品不足に陥っている」と述べた。

さらに、二つの戦争で米軍が使用した劣化ウラン弾の放射能や大気汚染が原因と考えられ、主に同国南部の町バスラで発症率が高い小児がん患者の、先進的な医療を施せるバスラ子ども病院での治療状況を詳述。毎年、多くの子どもが小児がんにかかり、治療費や通院の交通費を捻出できない患者世帯が増えている傾向を伝えた。その上で、「かつて二つの戦争を支持した日本に住む私たちが、戦争の不条理を押し付けられているイラクの子どもたちの命を助ける責任がある、そう思って活動しています」と熱く語った。

こうした現状を受け、同病院の院長や専門医らと協議して、小児がんの子どもとその家族が、物心両面で支えられながら適切な治療を受けて学校や社会に復帰することを事業の目的に設定。抗がん剤を含む医薬品の提供、通院する貧困家庭患者への交通費の補助、院内学級や保護者相談などの心のケアといった活動に取り組む中、昨年度は同基金の支援によって、1万4000ドル分の医薬品提供や167人への交通費補助、延べ約2000人への相談対応などが行えたと話した。

また、バスラ子ども病院には、自らが子どもの頃にがんを患ったり、がんの子どもを育てたりする経験を持つ同団体のスタッフが常駐していると説明。彼女たちが院内学級で勉強を教えたり、音楽や絵画に関するワークショップを行ったりすることで、子どもたちや保護者の大きな支えになっていると語った。

最後に長谷部氏は、小児がん治療に携わるイラク人医師たちを集めて、先日、JIM-NET主催で学術会合を開催できたと報告。最終的にイラクの人たちの手で医療が完結するまで全力でサポートしていきたいと語った。「活動を通じて次代を担う子どもたちが心身共に健やかに成長し、イラク社会の未来に明るい希望の光が照らされることを強く願っています」と述べ、参加者に協力を求めた。