「教会への砲撃は人間の責任ではない/イスラエル」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

教会への砲撃は人間の責任ではない/イスラエル
イスラエル軍は7月17日、パレスチナ領ガザ地区にある唯一のカトリック教会である「聖家族教会」を砲撃し、3人の信徒が死亡した。
同軍がガザ地区への攻撃と侵攻を開始して以来、パレスチナの民間人死亡者は6万人を超えた。イスラエル政府は国連や他の救援機関によるパレスチナ人に対する人道援助を排除し、救援物資の配布を米国系の「ガザ人道基金」に委託しているが、配布網が全く機能しておらず、相当数の餓死者が出始めているとのことだ。食料配給所に群がるパレスチナ人に対し、イスラエル軍兵士による発砲、攻撃事件も相次ぐ。
イスラエルのネタニヤフ首相は「ガザ地区は飢餓状態にない」と否定するが、アメリカのトランプ大統領は「ガザ地区での飢餓」を認めている。国際世論からネタニヤフ政権に対し、「食料を戦争の武器に使っている」との非難が噴出。イスラエル国内でもガザ人道危機に対する抗議運動が展開されるようになり、全世界に散在する1000人のユダヤ教指導者(ラビ)は最近、公開書簡を公表(8月1日付「レリジョン・ニュース・サービス」)し、その中で「飢餓を戦争の道具として使用している」と、イスラエル政府を糾弾した。6月3日には、「ガザ人道基金」が、トランプ政権を支えるキリスト教グループ「福音派」(エヴァンジェリカル)の指導者であるジョニー・ムアー氏を会長に任命した。「福音派」は、トランプ大統領の「MAGA(Make America Great Again)クリスチャン」の内で中心的な存在を成すグループで、ユダヤ教極右派のシオン主義に同調する、イスラエル一辺倒のキリスト教徒たちだ。
イタリアのマッタレッラ大統領は7月31日、大統領府で政府首脳や各国の外交団を前にスピーチし、その中で、ガザ地区においてイスラエル軍が、「救急車に向けて発砲し、負傷者の救援に奔走する医師や看護師を殺害し、飲料水を求めて並ぶ子どもたちを殺すのみならず、食料を求めて列をつくる飢餓者や栄養失調のために入院している子どもたちをも殺す」行為を、「意図的ではない過ちの繰り返し」と正当化しているのを非難し、イスラエル政府と軍部の「無差別な殺害を認めようとしない頑固さ」を糾弾した。マッタレッラ大統領によるこの非難の48時間後、イスラエルのヘルツォグ大統領は、「イスラエルは、無差別な殺害を実行する意思を有していない。私たちは、平和と安全の内に生きたいだけだ」と反論した。
ネタニヤフ政権は、ガザ地区での軍事作戦のみならず、国際法違反とされるヨルダン川西岸地区やガザ地区の一部をイスラエルに併合する政策をも同時に遂行している。イスラエル議会は7月23日、法的拘束力を有しないながらも、パレスチナ領である「ヨルダン川西岸地区をイスラエルに併合」する動議を可決し、併合へ向けての意思表示を明らかにした。ネタニヤフ政権の中東政策は国際法、国際人道法、倫理を全面的に無視しながら、米国の一方的な支援を受けて展開されていく。
オランダ政府は7月28日、イスラエルのユダヤ教極右政党の閣僚であるベツァレル・スモトリッチ財務相とイタマル・ベングビール国家治安相を「好ましからざる人物」に指定し、同国への入国を禁止する措置を講じた。両閣僚がヨルダン川西岸において「ユダヤ人入植者によるパレスチナ人に対する暴力を扇動し、ガザ地区でのパレスチナ人の民族浄化を主張した」というのが、その理由だった。イスラエル軍によるガザの聖家族教会への砲撃は、こうしたネタニヤフ政権の遂行する中東政策から発生したものでありながら、攻撃の当事者であるイスラエル軍側は、「意図的でもなければ、人間(兵士)の過ちでもなく、砲弾か大砲の不具合だった」との第1次調査結果を公表した。宗教の聖域で、パレスチナの一般市民の避難所ともなっているカトリック教会に対する砲撃が「人間の責任ではない」との主張だ。兵器に意志は無く、意志を有する人間の兵器の使い方によって倫理が判断されるという、人間と機械の関係における基本的真理の否定だ。
イスラエルのネタニヤフ首相は「聖家族教会」砲撃翌日の18日、教皇レオ14世と電話会談した。バチカン記者室から公表された声明文は、教皇が同首相に対して「和平折衝を活性化させ、停戦と終戦に到達するように」との願望を表明しながら、「ガザ地区の住民の置かれている人道状況」にも言及し、「その代価を子ども、老人、病人が払っている」と指摘した、と伝えた。また、「儀式典礼の場と、その場で祈る信徒、そして、イスラエルとパレスチナの全ての人々の擁護」をも要請したとのことだ。
さらに、教皇は20日、ローマ郊外にある教皇避暑宮殿で執り行った日曜恒例の正午の祈りの機会に、ガザ地区の「聖家族教会」に対する「イスラエル軍による攻撃に深い苦痛」を表明しながら、「こうした軍事攻撃が、一般市民や礼拝の場に対して継続されている」と糾弾した。「野蛮な戦争を停止し、紛争の平和的解決を」とアピールする教皇は、国際共同体に対し「(ガザ地区での)人道法の順守、一般市民の擁護義務の尊重、そして(パレスチナ人の)集団処罰、無差別な武力行使、住民の(大量)強制移動の禁止」を呼びかけた。
今回のガザでの戦闘を、バチカン国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿は、2023年に発生したイスラーム組織ハマス(ガザ地区を実効支配していた)によるイスラエルに対するテロ攻撃とは比較にならない「無法の(際限のない)戦争」と呼ぶ。「聖家族教会」の攻撃に関するイスラエル軍の第1次調査結果を信用せず、最終的な「真の調査結果」を待っているという。だが、同枢機卿が最も恐れるのは、中東和平の枠内や、パレスチナ人とユダヤ人との関係において、キリスト教徒が穏健であるため、「停戦や和平へ向けて動くキリスト教を(中東から)抹消しようとする(ユダヤ教極右政治勢力の)動き」である。
国際法に違反してイスラエルが占拠している東エルサレムでは、ユダヤ教極右勢力によるキリスト教徒に対する暴行が強くなってきている。中東において、イスラームやユダヤ教を基盤とする国家イデオロギーに圧迫され、キリスト教徒が世界各国へ離散していく現象が続き、中東のキリスト教徒の総数が激減している。
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