教皇がメッセージ――ノルマンディー上陸作戦80年、ローマ解放80周年の記念に際して(海外通信・バチカン支局)

ローマ解放から80周年を記念してメッセージ

1944年6月、ローマ南部アンツィオから上陸した連合軍が、ナチス・ドイツ軍と交戦せずローマに進軍、解放した。だが、ローマ解放までの期間、市民たちは、ローマが連合軍とナチス・ドイツ軍との戦場になり、人命のみならず、膨大な古代史跡が破壊されるのを恐れていた。彼らは、市街戦という悲劇を避けるため、ローマ市内の聖母マリア大聖堂(サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂)に安置してある「ローマ市民救済の聖母マリア」の画に願をかけ、市内での戦闘回避を祈った。第二次世界大戦末期、ローマを占領していたナチス・ドイツ軍は、幸いにして、連合軍がローマに入る前に、市内を破壊せず撤退していった。

この聖母画は、ローマがペストなどの伝染病や、さまざまな自然災害、戦争に見舞われた時、常にローマ市民を救ってきた信仰の対象となる画だ。教皇が海外渡航の前後に必ず立ち寄り、聖母画の前で祈り、加護と感謝を表してきた。また、教皇が、自身の墓地を用意し、教皇引退後の隠遁(いんとん)生活の場に選んだ大聖堂でもある。

戦禍が広がらないよう、ローマ市民が彼らの司牧者である教皇ピオ十二世と共に聖母画に祈りを捧げてから80年。それを記念する6月4日、教皇は、「あまりにも多くの紛争が、現代世界で起こっている」と糾弾するメッセージを公表した。ウクライナ、パレスチナ、イスラエル、スーダン、ミャンマーでは、「兵器の轟音(ごうおん)が聞こえ、人間の血が流され続けている」と訴え、「兵器の論理に譲歩してはならない」と戒めた。

また、「世界が、世界史の多くの部分を構成してきた、国家主義を基盤とする好戦的なメンタリティーの変革に、いつになったら到着するのだろうか」と国連で問いただした、教皇パウロ六世の言葉(1965年10月4日)を追憶。80年前に聖母画にかけた願を記念するローマ市民に対して、「紛争や敵対を解決するための本質的な条件である友愛を促進することで、どこにあっても、真の平和の構築者であれ」と呼びかけた。そして、「自身のうちに平和をもっている人だけが、勇気と柔和さをもって絆を構築し、人々の間に関係を打ち立て、家庭、職場、学校、友人の間にある緊張を緩和していける」と示した。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)