スリランカで「子どもの権利と幸福のための宗教者の役割」に関するワークショップ

写真は全てWCRP/RfP日本委提供

ユニセフ、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)、共同学習イニシアチブの三者による「子どもの権利と幸福のための宗教者の役割」に関するワークショップが8月13~15日、スリランカ・コロンボ市内のホテルで開催された。テーマは『南アジアにおける思春期の少女のための協力と前向きな変化の促進』。南アジアの中でも特に貧しい地域とされるインド、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、スリランカを中心に8カ国から、ユニセフ職員、宗教指導者、政府関係者ら約70人が参加した。日本からは、アジア宗教者平和会議(ACRP)の篠原祥哲事務総長(WCRP/RfP日本委員会事務局長)、根本信博上級顧問(立正佼成会参務)が出席した。

ユニセフでは、長年にわたり世界各国で子どもの保護に関する活動を続ける中で、宗教団体との協力関係を築いてきた。2018年には、ユニセフとWCRP/RfP国際委との間で「子ども、家族、コミュニティのための宗教と前向きな行動変容」(FPCC)イニシアチブを設立。同イニシアチブの事業としてアジアやアフリカなどで展開されている子どもの保護事業や支援活動に対し、本会会員が取り組む「一食(いちじき)ユニセフ募金」(今年度から名称を「ユニセフ募金」に改称)の浄財が拠出されている。

2019年には、ユニセフと世界各国の宗教関係者が集い、ハイレベル会合が開かれた。22年には、フォローアップフォーラムが行われ、ユニセフと宗教関係者の協力関係をより強化するためのロードマップが策定された。その中で、ユニセフの活動に関するアドバイザーの役割を担う宗教関係者による地域諮問グループが設立された。

今回のワークショップは、その地域諮問グループによって計画されたもの。貧困による暴力にさらされる少女たちの保護や、健康促進、就学などの問題に、ユニセフと宗教団体とがより連携して取り組む道を探ることが目的だ。

参加者は国ごとに分かれ、自国の少女たちが置かれた現状に沿った具体的な行動計画を模索した

会議1日目、午前中のセッションでは、ユニセフ南アジア地域ジェンダーアドバイザーのヴェロニカ・カマンガ・ンジコー氏が基調発題を行った。ンジコー氏は、南アジアには6億人を超える青少年がいるとし、その中でも10~19歳の少女たちの多くが、貧困による暴力や性的搾取、差別などの被害を受けているといった課題を提起。その後のディスカッションで、参加者は国ごとに分かれ、自国の子どもや思春期の少女が直面する問題を出し合うとともに、自分たちが果たす役割や問題克服の可能性について語り合った。

2日目には、南アジア地域で保健予防接種のアドバイザーを務めるユニセフ職員らを進行役に、子どもたちの健康を阻害するさまざまな病気を防ぐためのワクチン接種について、各国の現状を考察。ディスカッションでは、地域の実情に沿った草の根の活動を展開する宗教団体の経験や智慧(ちえ)を基に、ワクチン接種率の向上や健康促進に向けた具体的な行動計画が検討された。さらに、行動計画を実行に移すための国別調査委員会設立の重要性も確認された。

3日目の冒頭、祈りの時間が持たれ、篠原事務総長がスピーチに立った。篠原事務総長は、12年前に発生した東日本大震災での復興活動を振り返り、困難に直面する人間のレジリエンス(回復力)は、人と人とのつながりの中で強化されることを確認したと強調。特に、宗教が各地域において儀式や祭り、傾聴活動、メディアによるメッセージ発信といった活動を通して、コミュニティーの中で人と人とのつながりを強化し、復興を促進するレジリエンスを生み出していった経験を踏まえ、コミュニティーレベルにおけるレジリエンスの強化に宗教は大きな役割を果たせるとの確信を示した。

さらに、この日が日本の終戦記念日とされる8月15日であることから、78年前、日本がアジアの国々にたくさんの悲劇をもたらしたことを内省。当時のスリランカのジャヤワルダナ大蔵大臣が、賠償責任を追及される日本に対し、法句経(ほっくぎょう)の「怨(うら)みに報いるに怨みを以(もっ)てしたならば、ついに怨みの息(や)むことがない。怨みを捨ててこそ息む」との一節を引用しながら賠償請求権を放棄した歴史に触れた上で、「私は、この赦(ゆる)しが、戦争国であった日本を、平和を求める国に変容させた大きな要因の一つと信じています。多くの日本人は、この大臣の発言を忘れておりません。私も、このご恩に感謝し、私自身が平和の道具となって、人々の安寧のために努力をしたいと思います」と結んだ。

最終日のセッションでは、宗教者自身が「子どもの権利条約」について学びを深める大切さが確認されたほか、現代のSNSツールを活用し、青少年が率先して子どもの幸福を守るための情報発信をしていくこと、そのための学習会を今秋に開催すること、また、自国の政府と連携して10代の青少年がいる家庭の実態調査を行うなど、具体的な行動計画が採択された。

最終日の祈りの時間にスピーチに立つ篠原事務総長

会議を終え、篠原事務総長は、「貧困と暴力の関係はとても根深いものです。直接的な暴力だけでなく、児童婚などの性的搾取、成長が阻害されるといった健康被害、さまざまな暴力に晒(さら)されている少女たちを保護し、暴力をなくそうという取り組みに、ユニセフと共に宗教界が直接関わっていけるというのは、非常に意義深い取り組みです。これからも、WCRP/RfP、そしてACRPとして、ネットワークを最大限に生かして参画していきたい」と期待を寄せた。