「世界初の核実験の場から核兵器廃絶を訴える大司教」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)
世界初の核実験の場から核兵器廃絶を訴える大司教
第二次世界大戦中、ナチス・ドイツなどによる原子爆弾の開発を恐れる米国、英国、カナダは、科学者、技術者を総動員して核爆弾の開発を目指す「マンハッタン計画」を実行した。1945年7月16日、米国南西部にあるニューメキシコ州サンタフェ市南部の砂漠で、世界初の核実験(トリニティ実験)を実施。同年8月6日、9日には、原子爆弾が広島と長崎に投下された。
世界初の核実験が行われた場所を包括するサンタフェ大司教区のジョン・ウェスター大司教は、「核兵器の問題は、“全てか皆無か”に関する問題である。核戦争を完全な形で回避するか、私たちが完全に破壊されてしまうか。“その間”がない問題だ」と発言。核戦争の危険性を訴え、「(核抑止力を信じて)自己満足的な幻覚を持つ米国民とカトリック信徒たちに対して、核兵器廃絶について緊急な話し合いの場を持つように」と呼びかけた。
ウェスター大司教は今年7月、同市で他の平和団体と協力し、世界初の核実験から78周年を記念する集会を開催。トリニティ実験による犠牲者の追悼、被害を受けた周辺住民に対する連邦政府からの補償を要請するだけでなく、核兵器のない世界に向けた行動を訴えた。
サンタフェ大司教区は2022年、「キリストの平和の光明のうちに生きる――核軍縮に向けた話し合い」と題する司牧書簡(指針書)を公表していた。その精神に沿い、ウェスター大司教は、シアトル大司教区のポール・エティエンヌ大司教と共に、8月2日から9日まで核軍縮を推進するための「日本5都市への平和巡礼」を企画している。広島、長崎での平和式典にも参加する予定だ。
サンタフェ大司教区は、司牧書簡に記されている核軍縮に向けた多国間主義に基づく具体的な交渉について定期的に論議。「私たち(米国)と広島、長崎を結び付ける絆が、原爆ではなく、キリストの平和、キリストの光明になっていかなければならない」という結論に達した。「光明は日本にとって重要なテーマだ。日本は、光明(日の出)の国だから」と主張し、「キリストの光は、闇を貫く過ぎ越し(復活)の光だ。だが、残念ながら、そのキリストの光が、平和ではなく、原爆の閃光(せんこう)によって放射された破壊の光と交錯してしまった」と悲嘆した。
さらに、「私たち(米国のカトリック教会)は、日本と、原爆に関することではなく、キリストの光を分かち合いたい」と伝え、長崎大司教と広島司教に対し、今回の訪日イニシアチブの受け入れと協力に謝意を表明。2025年に向けて日本のカトリック司教団が準備を進める、原爆投下80周年記念行事にウェスター大司教とエティエンヌ大司教が参加し、共に祈り、「カトリック4司教区で、核軍縮に向けた具体的な多国間交渉を推進するための検討をしたい」と約束した。
米国カトリック司教会議の「国際正義と平和委員会」は8月1日、声明文を公表し、この中で「78年前、米国はニューメキシコの砂漠で最初の核実験を実行し、広島と長崎に投下された原爆を開発する道を開拓していった」と指摘。1962年に世界が直面した核戦争の危機という深淵(しんえん=キューバ危機)や、現在のウクライナ侵攻で繰り返される核兵器使用の恐喝に触れ、「核兵器が人類に対してもたらす例外的な危険性から、われわれの目をそらさないように」と警告した。
さらに、「過去に何度も繰り返されてきたように、核戦争に勝者はなく、絶対に起こしてはならない」と強調。「カトリック信徒と善意の人々に対して、われわれの国家(米国)指導者や、世界で核兵器を管理する指導者たちが、強く必要とされている核軍縮を推進していくよう共に祈ろう」と呼びかけた。