イスラエル軍の攻撃で高まる緊張――ヨルダン川西岸地区(海外通信・バチカン支局)
昨年末にイスラエル史上最右翼と評されるネタニヤフ政権が発足して以来、「2民族2国家原則」による中東和平の交渉が完全に停滞している。国際法違反とされながらも、同政権が強力に推進するパレスチナ領ヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植政策で、同地区ではパレスチナ人とユダヤ人との緊張が高まり武力衝突が絶えない。
こうした状況を背景に、イスラエル軍は7月3日から5日まで、同地区北部ジェニンにあるパレスチナ人難民キャンプを標的とした軍事作戦を展開した。イスラエル軍側は、キャンプ内にあるパレスチナ人武装組織ファタハ(西岸地区を支配)、ハマス(ガザ地区を支配)、イスラーム聖戦(PIJ)で構成される合同指令本部の掃討作戦として攻撃を正当化し、兵士1000人超とドローン(無人航空機)を投入。過去20年で最大の軍事作戦とも呼ばれた武力介入によって、パレスチナ人12人、イスラエル兵1人が死亡、900ほどの住宅とインフラが破壊され、戦禍を逃れた約3000人のパレスチナ人が帰還できず重大な人道危機が発生している。
4日には、軍事介入に抗議するパレスチナ人男性がイスラエルのテルアビブで車を暴走させて歩行者を襲撃し、ナイフで刺傷する事件が起きた。イスラエル軍撤退後の6日にも、ヨルダン川西岸地区ナブルスで2人のパレスチナ人がイスラエル軍兵士に射殺され、同地区ユダヤ人入植地近郊ではパレスチナ人男性がイスラエル軍の兵士を銃殺した。
聖地のラテン典礼(ローマ派)カトリック教会大司教区は4日、イスラエル軍の軍事作戦を「前例の無い侵攻」「野蛮行為」と糾弾する声明文を発表。カトリック教会の施設が破壊されたことにも言及し、「即刻の停戦と、正当化できない犯罪の停止」を求めた。正教会エルサレム大主教区も同日、声明文で「世界が今日、中東において警鐘を鳴らすべき、暴力と流血の過激化を目撃している」と非難。「人間一人ひとりが有する天来の平和と尊厳性のうちに生きる権利」を強調しながら、「パレスチナ問題に対する正義にかなった解決策は、人道的だけではなく、政治的、道徳的に必要である」と呼びかけ、「暴力の継続は、中東の緊張と分裂を強めるだけ」とアピールした。