内戦の長期化が懸念されるスーダンでの軍事闘争(海外通信・バチカン支局)
スーダンでは2019年に、30年にわたり強権を行使してきたバシール政権が崩壊し、国軍の設立した「暫定軍事評議会」(TMC)と「自由と変化宣言」(DFC)の勢力が「政治合意」「憲法宣言」に署名したことで暫定政府が樹立され、民政への移管が試みられていた。しかし今年4月15日、国軍と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の間で激しい戦闘が勃発。両軍事組織間での権力闘争(RSFの国軍編入)を機とする軍事衝突は首都ハルツームから全土に広がり、各地で銃撃戦や砲撃戦が展開されて市民の犠牲が拡大している。
こうした状況を受け、ローマ教皇フランシスコは16日、バチカン広場で行われる日曜日恒例の正午の祈りの席上、「世界で続く数々の戦争」に言及。「世界が、人間の業による暴力的な死にさらされることなく、神から与えられた生命に対する驚きを表明していけるように」と祈りを捧げ、「スーダンでの状況を憂慮しながら見守っている」と述べた。さらに、「これまでも多くの試練に耐えてきたスーダン国民」への連帯を表し、「平和と協調に向けた道を優先させるため、武力放棄が実現され、対話が選択されるように祈ろう」と、世界各国から広場に参集した信徒や観光客に呼びかけた。
世界教会協議会(WCC)のジェリー・ピレー総幹事も17日、「スーダン国軍とRSFとの間で激化する紛争に対する深い悲しみ」を表明。WCCが「政治的、経済的な混乱、高まるインフレ率、拡大する貧困、厳しい気候変動の影響に喘(あえ)ぎ、無視できない人道援助を必要とするスーダン国民が、さらに戦闘でもたらされる苦しみを受けることに憂慮している」と述べた。ピレー総幹事は、「即刻に停戦し、苦しむスーダン国民のために武力闘争を放棄するように」と求めた。WCCは、世界352のメンバー教会に「スーダン和平のための祈り」を呼びかけており、19日には本部ジュネーブの礼拝堂で、スーダンの主流派宗教であるイスラームをも含めた「諸宗教間における人類友愛」のための祈りが捧げられた。
スーダンでは、国軍とRSFの最高指導者が20日、中東の衛星放送局「アルジャジーラ」の電話インタビューで相手側との折衝を拒否した。国連のグテーレス事務総長は同日、イスラームのラマダン(断食月)明けの祭日が21日から始まるのを機に、少なくとも3日間の一時停戦を呼びかけた。RSFは、「人道回廊の開設のため」との理由で72時間の停戦に応じる意向を表明。国軍も、停戦への合意を公表したが、交戦は止まらなかった。世界保健機関(WHO)は21日、同国で413人以上が死亡、約3551人が負傷したと明かした。
両軍事組織間での武力闘争が長期化し、再び同国での内戦に発展していくことが懸念され始めた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、スーダンから隣国チャドに避難する人々は約2万人に上ると発表。チャドには、2003年にスーダンのダルフール地方で発生した、RSFの前身となる民兵組織(アラブ系兵士が主体)による黒人住民の襲撃を逃れた約40万の難民が今も滞在している。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)