暴力の連鎖が続く聖都エルサレム(海外通信・バチカン支局)

ローマ教皇フランシスコは1月29日、バチカン広場で行われる日曜恒例の正午の祈りの席上、「聖地から届くニュースを、深い苦痛を持って受けている」と発言した。

特に、「パレスチナ領で展開されたイスラエル軍による反テロ軍事作戦(26日)で、女性一人を含む10人のパレスチナ人が死亡」したこと、「金曜日(27日)に聖都エルサレム近郊にあるシナゴーグ(礼拝所)の入り口で、パレスチナ人によって7人のイスラエル人ユダヤ教徒が殺害され、3人が負傷した」ことを糾弾した。

さらに、「日に日に助長されていく死の渦が、両国民間(バチカンはパレスチナ国家を承認)に残されていたわずかな信頼関係を、全て断ち切ろうとしている」と憂慮を表明。「今年初めから、イスラエル軍との銃撃戦で十数人のパレスチナ人が死亡している」と指摘し、激化する両国民間での闘争の停止を求めた。そして、「両国政府と国際社会に伝えたい。即刻、躊躇(ちゅうちょ)なく他の道を、すなわち対話と誠実な平和を追求する道程を選択していくように」と訴えた。

これに先立つ27日、聖都エルサレムのカトリック司教たちは声明文を公表。この中で、「昨夜、聖都のキリスト教徒居住区に、旗を掲げて歌い叫ぶユダヤ人の入植者たちが乱入し、レストランで食事をする人々を罵(ののし)り、レストランや近隣にある商店の椅子、テーブルを破壊した」と告発した。「こうした攻撃や、聖都でエスカレートする暴力行為に対する憂慮を表明する」とも伝えた。

カトリック教会のみならず、聖地にある他のキリスト教諸教会の指導者たちも、合同で声明文を発表し、「聖地の全ての紛争当事者たちが(暴力を)規制し、自己コントロールするように」と呼びかけた。

同指導者たちは、こうした状況に遺憾の意を表し、現地のモニタリングを続けている。「今年に入り、パレスチナ人32人、イスラエル人7人が死亡した。暴力の激化は、双方の共同体と政治指導者たちによる確固とした介入がなされない限り、今後も継続されていくだろう」と警告した。これまで、パレスチナ人の蜂起を武力で鎮圧するイスラエル軍に対し、パレスチナ人過激派組織はロケット砲やテロ攻撃で対抗。その報復として、イスラエル空軍がガザ地区を空爆するという攻撃の連鎖が続いている。宗教に深く根を張る両民族間による聖都エルサレムでの挑発行為、紛争の渦が、さらにエスカレートしていく傾向にあるからだ。

昨年末に樹立したイスラエルのネタニヤフ新政権は、ユダヤ教の極右勢力をも含む、同国史上で最右翼の連合政権と呼ばれている。同政権が今後、2国家原則を認めず、国際法違反とされるパレスチナ領(特にヨルダン川西岸地区)へのユダヤ人入植政策を強力に推進し、同地区をイスラエルに併合するのではとの懸念が広がっている。また、中東3大宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラーム)に共通の聖都であり、パレスチナ側も新国家の首都とする聖都エルサレムを、イスラエルのみの首都としてユダヤ化するのではないかとさえ言われている。今年初めからイスラエル人とパレスチナ人の間で続く武力闘争の激化は、その兆候なのだ。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)