「教皇とキリル総主教の会見が延期」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)
モルドバへと広がるウクライナの戦火
ウクライナとルーマニアに隣接し、欧州の中でも最貧国の一つに挙げられる小国モルドバ。2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻以来、約40万人に及ぶウクライナからの避難民を受け入れてきた。その大多数は、ルーマニアを経由して欧州各国に逃れていったが、8万人ほどが同国に留(とど)まっている。
モルドバ国民は、モスクワ志向と欧州連合(EU)志向という二つの“魂”を持っているといわれる。二つの潮流が均衡する上に成り立つ国であり、ロシアによるウクライナ侵攻を非難しながらも、ロシアに対する経済制裁には参加していない。ロシア語が一般的に使われ、ロシアで生まれた人、ロシアに出稼ぎへ行き、同国政府からの年金で生活している人も多い。
モルドバでは、ロシアへの帰属を主張するグループや政党もある。特に、ウクライナと国境を隣接する地域には、親ロシア派の住民らが実効支配し、自称する「沿ドニエストル共和国」が存在する。同地域には、約1500人のロシア軍兵士が旧ソ連時代の大量の兵器を保有して駐屯している。
ソ連崩壊後の1992年、ロシアへの帰属を求める住民の蜂起で生まれた同地域は、ウクライナ東部のドンバス地域に比較される。ロシア軍は現在、同地域と南部のクリミア半島を陸路で連結し、さらに西部オデーサに至る黒海沿岸地帯を占拠することで、ウクライナの黒海へのアクセスを遮断する作戦を実行している。その地理的な終着点に、モルドバの沿ドニエストル地域が存在しているのだ。
同地域にある治安機関庁舎で4月25日、複数の爆発が発生した。翌26日には、ロシア語ラジオ放送のアンテナが破壊された。27日には、ロシア軍に対する銃撃があったとも伝えられている。ロシアとウクライナの双方が、一連の爆発に関する関与を否定して相手側の責任を追及し、非難し合っている。だが、背景には、ロシア軍によるウクライナ南部制圧作戦に同調し、モルドバをも戦火に巻き込もうとする意図が潜むとの疑念もある。
だが、モルドバの首都キシニョフ(キシナウ)のアントン・コザ司教(カトリック)は、ロシア軍がモルドバへ侵攻しても、国民がロシア派とウクライナ派(EU派)に分かれているため、「戦争にはならず、クリミア半島のように、ロシアへ併合されていく可能性が高い」との見方を示す。それ以上に、侵攻によって両派の対立が深まることが怖いと話す。
同司教は、ウクライナでの戦火がモルドバに飛び火することを避ける唯一の道は、「対話以外にない」との確信を表明する。ウクライナとロシアの和平交渉が再開されなければ、「ウクライナ戦争は期限なく続き、全てが破壊されてしまう。誰も救われないだろう」と憂慮の念も示している。
また、ウクライナ、モルドバ、ジョージアはロシアとの関係が似た状況にあり、モルドバも、プーチン大統領の説く「一大ロシア」という説話の下で侵攻の標的となり得る。同司教は、3カ国のEU加盟について、「3国共にEU志向派の政府と議会が政権を担うが、その内部でも、今、この時点でEUへの加盟申請に反対する指導者もいる」と、慎重な発言をしている。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)