反出生主義について考える 教団付置研究所懇話会「生命倫理研究部会」第22回研究会

水島氏は、人生苦から逃れたいとの助けを求めて反出生主義に傾倒する人々の心のケアに、宗教者が関わる役割は大きいと述べた(「Zoom」の画面)

立正佼成会の中央学術研究所が加盟する教団付置研究所懇話会「生命倫理研究部会」の第22回研究会が3月31日、オンラインで開催された。オブザーバーを含む10団体から22人が参加。本会から中央学術研究所学術研究室の西康友主幹が参加した。

当日、反出生主義研究会・生命倫理相談所の水島淳代表が、『反出生主義とは何か?――ケアの視点と宗教、社会から考える』をテーマに講演した。

水島氏は、紛争や貧困などを引き起こす人類を悪(あ)しき存在と見なして、「人間は生まれてこない方が良い」とする思想が「反出生主義」であると説明。古代のギリシャやインドの時代から見られ、20世紀には子供を産むことが普遍的に悪いとする思想と結びつき、現代では「全ての人間、あるいは全ての感覚ある存在は生まれるべきではない」という考え方に至っていると説明した。

人生を悲観的に捉える人々の支持を得ており、背景には、「生老病死」の苦から逃れられない自らの存在への悲嘆の心情や、不幸が子供たちに引き継がれていく連鎖への恐怖があると述べた。

また、親に愛されなかったなどの思いから、反出生主義に傾倒する人もいると指摘。こうした人が発する「生まれてこない方がよかった」という言葉の奥に、苦しみから救出を求めるSOSが潜んでいる可能性があり、精神科医やカウンセラーだけでなく、宗教者にも心のケアの役割があると強調した。

ケアの方法としては、「生まれてこない方がよかった」という感情を否定することなく、同時に「自分はこの世に唯一の存在であり、生きていてよい」「生まれてきてよかった」という基本的自尊感情が持てるように、じっくり傾聴に努めることが重要と語った。

一方、自死を望むような言葉が見られた場合は、勇気を振り絞った告白とたたえながらも、強引な説得はせず、速やかに医療機関などにつなげることが必要と訴えた。