ウクライナ侵攻の即時停止を訴える各国の政治指導者と諸宗教指導者(海外通信・バチカン支局)
これに対し、ロシアのラビであるベルル・ラザール師は3月2日、「各宗教の根底には、われわれの全員が、唯一の神の子であり、皆が兄弟姉妹であると受けとめる精神がある」との考えを公表。「私たちの神に対する義務は、あらゆる力を尽くして相互理解、相互尊重のために闘うことであり、いかなる場合にも、私たちの兄弟姉妹に向かって剣を振りかざしてはならない」と訴えた。さらに、「神は、おのおのの信仰者が人間生命を救うため、あらゆる手段を尽くすようにと期待されている」と説示。ウクライナ、ロシア、欧州、他の大陸にいる全宗教指導者に向かい、「平和のために一致しよう」とアピールした。
また、ラザール師は、「現在の(ウクライナの)状況から出口を見いだすために、あらゆる努力を惜しまない多くの諸宗教指導者がいる」との確信を表明。「和平を求める諸宗教指導者による活動が、紛争当事者間で平和的解決を進める努力を支援する」と期待を寄せた。
一方、プーチン政権は、ロシア軍によるウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼び、「戦争」として報道させない統制を強化している。ロシア連邦議会の下院は4日、特別軍事作戦を「戦争」と定義したり、作戦を批判してロシアへの経済制裁を支持したりする報道、情報発信などを行った場合、最大15年の禁錮刑を科せる法案を可決した。この「反フェイクニュース(偽情報)法」が下院で成立すると同時に、欧米の主要メディアがロシアから一斉に撤退した。
ローマ教皇フランシスコは6日、バチカン広場での正午の祈りの席上、「ウクライナでは血と涙が川となって流れている」と述べ、「(侵攻は)単なる軍事作戦ではなく、戦争だ」と非難した。同時に、生命の危険を顧みずにウクライナ国民を追い続け、戦争の残虐性を世界に伝える記者たちに謝意を表した。
バチカン記者室は8日、バチカン国務省長官のピエトロ・パロリン枢機卿が、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と電話で会談したことを明かした。同枢機卿は、「ウクライナで進行中の“戦争”に対する教皇の深い憂慮」「軍事攻撃の停止、市民と救援者に対する人道ルート(回廊)の開設」「武器による暴力から和平交渉への方針転換を」という教皇の訴えを説明。「バチカンは、平和のために奉仕するあらゆる努力の用意がある」と伝え、ウクライナ侵攻の調停に乗り出す意向を伝えた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)