ウクライナ侵攻の即時停止を訴える各国の政治指導者と諸宗教指導者(海外通信・バチカン支局)

コメディアンから転身して政界に進出し、今では、欧州連合(EU)が掲げる自由や民主主義といった基本的価値観の「最良の旗印」と評価されるウクライナのゼレンスキー大統領は、ユダヤ教徒だ。

ロシア軍が3月1日、ウクライナの首都キエフにあるテレビ塔をミサイル攻撃した時、バビ・ヤールにあるユダヤ人大量虐殺犠牲者の追悼記念碑も被害を受けた。この記念碑は、1941年にナチス・ドイツによって約3万4000人のユダヤ人が虐殺されたことを追悼する「バビ・ヤール・ホロコースト・メモリアルセンター」にある。欧州で、ポーランドのアウシュビッツに次ぐユダヤ人大量虐殺の地だ。

1日の事態を受け、ゼレンスキー大統領はすぐに、「私は今、世界のユダヤ教徒たちに向かってアピールしたい。あなたたちは、何が起こっているかを見ましたか? 世界にいる数百万人のユダヤ人が今、沈黙しないことが大事なのです」と呼びかけた。さらに、「ナチスは、沈黙の中から生まれてきました。市民が殺害されていることを叫んでください。ウクライナ国民が抹殺されていることを叫んでください」と訴え、同政権を「ナチス集団」と呼んでウクライナに侵攻したプーチン大統領を糾弾した。

イスラエルのナフタリ・ベネット首相は5日、ロシアを訪問し、モスクワで3時間にわたりプーチン大統領と会談した。同首相がウクライナ情勢を巡って仲介に乗り出したと推測されているが、その背景には、ゼレンスキー大統領からの呼びかけがあったと見てよいだろう。

そして1日、ロシア生まれで、ウクライナのラビ(ユダヤ教指導者)であるモシェ・リューヴェン・アツマン師は、ロシア国民とロシアのユダヤ教徒にメッセージを発信。「ロシアの人々よ、戦争を止めてください。(政府によって統制されている)国営テレビの報道を信じないでください。彼ら(政権担当者たち)は、あなたたちにうそをついています」と語りかけた。

アツマン師は、キエフにあるユダヤ人大量虐殺の追悼記念碑が攻撃されたことにも言及している。「(ウクライナ国家の行方に)無関心であることはできない。(私は)国からも、国内のユダヤ人共同体からも去りはしない」と明言し、「ウクライナにいる一人のラビとして、助けを求めてくる多くの老人、女性や子供たちに救援の手を差し伸べ、殺害者の側ではなく、“光”の側に立つ名誉を誇りとしている」と述べている。ユダヤ教徒であるか否かに関係なく、「イスラエルのアラブ人をも含めて、世界の人々から声をかけられている」と明かす一方、「ロシア人の友人たちが沈黙を守っている」と遺憾の意を表明している。