教皇がメッセージ 「人類が戦争に執着することは悲劇」(海外通信・バチカン支局)
ローマ教皇フランシスコは2月18日、東方典礼を執(と)るカトリック教会を管轄するバチカン東方教会省の総会に出席し、参加者に対して、「今、この瞬間に、あらゆる地域で多くの戦争が行われている」と警鐘を鳴らした。教皇はこれまでも、各地で紛争が続く状況を「断片的に第三次世界大戦が進行している」と述べてきた。
東方典礼カトリック教会は、ローマ・カトリック教会に属しているものの、式典は東方教会(コンスタンティノープル=現トルコ・イスタンブール)の様式を継承する。中東のカトリック教会諸派、ウクライナの東方典礼カトリック教会(ギリシャ系)、エジプトのコプト派カトリック教会、正教会の典礼伝統を守るエチオピア・カトリック教会なども同様だ。
当日、教皇は同教会の指導者に対し、東方教会省とローマ教皇庁東方研究所を創設した教皇ベネディクト十五世(1914年から1922年まで在位)が、第一次世界大戦を「不必要な虐殺」と非難して戦争の非文明性を説いたことを説明。しかし、訴えは当時の政治責任者たちに聞き入れられず、後に教皇ヨハネ・パウロ二世がイラク戦争の回避をアピールした時も同じ状況になったと振り返った。
こうした人類史を振り返り、現教皇は、「平和に向けた最大の褒美が、あたかも戦争であるかのような印象を受ける。全く矛盾している」「私たちは、戦争に執着している。これは悲劇だ」と憂慮の念を表明。人類は、科学や思想など多様な分野で進歩を続け、それを誇っているが、「平和の構築に関しては後退している」とし、人類は「戦争することのチャンピオンだ」と厳しく非難した。戦争を続けるのは人類として恥ずべきことであり、「私たちは、この態度を改め、(神に)祈り、許しを乞わなければならない」と訴えた。
また、今世紀では停戦と平和を訴える言葉を繰り返す必要がないようにと願ってきたが、「人類は、いまだに暗黒の中を彷徨(さまよ)っている」と述べ、「これまでにも、中東、シリア、イラク、エチオピアのティグレ州などで起きた紛争で虐殺を目の当たりにしてきた」と指摘。現在のウクライナ情勢に触れ、「欧州東部のステップ地帯(ウクライナ周辺地域の草原)には威嚇の風が吹き、武器の導火線に火薬が点火され、貧しい無実の人々の心を凍結させている」と訴えた。
さらに、レバノンでは政治、経済危機により多くの人々が深刻な食料不足に陥っており、現在の状況が続くと、若者や大人が将来への希望を失い、祖国を去っていくと指摘。「レバノンの地は、東方カトリック教会にとって母なる大地である」と示し、「この地で数千年にわたり(東方典礼カトリック教会の)伝統が発展し、継承されてきた。あなたたちは、その伝統の息子や娘である」と述べ、同教会の指導者にさらなる連帯を呼びかけた。
20日には、バチカン広場で執り行った正午の祈りの席上、ウクライナ情勢とは明確に指摘しないながらも、ロシア、ウクライナ両国のキリスト教徒同士が戦争するような状況を非難した。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)