一食福島復興・被災者支援事業 住民の願いに応え、9団体に750万円を助成 

原発事故当時の混乱や避難の様子を語る佐々木会長(写真中央)。野田氏(右)も立ち入りが許される限り津島の撮影に臨む

立正佼成会一食(いちじき)平和基金運営委員会はこのほど、今年の「一食福島復興・被災者支援」事業の拠出先として、東日本大震災の復興に取り組むNPO法人や非営利組織など9団体を選出、計750万円を助成した。今回も、被災地の調査や支援先の選定はNPO法人「ふくしま地球市民発伝所(福伝)」(竹内俊之代表理事)に委託され、管理費として150万円が寄託された。

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福島県では、震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故から9年が経過し、除染で放射線量が低下した地域では、避難指示や居住制限の解除が進められてきた。帰還困難区域の一部でも線量の低下が見られ、地元住民の要望によって双葉町、大熊町、浪江町など6町村の一部で、避難指示を解除して居住を可能とする特定復興再生拠点区域が設定された。除染やインフラ整備などが進む半面、帰還を望む住民の多くは高齢者で、若い世代は放射能の影響や子供の進学などを理由に避難先に定住する割合が高い。

ふくしま地球市民発伝所(福伝)の協力を得て助成先を選定

福伝では、こうした被災地の状況を調査。復興をめぐる課題が複雑化している現状とともに、震災の記憶の風化といった課題も見えてきた。そのため、記録や発信といった取り組みの重要性に着目。生まれ育った故郷での生活や文化を後世に残す活動、豊かな資源と文化を次世代に継承するための住民会議、子育て支援などを行う9団体を助成先に選定した。

このうち、「ふるさと津島を映像で残す会」は、原発事故により帰還困難区域に指定される浪江町津島の住民によって設立された。現在、会員12人は福島市内などで避難生活を送る。高濃度の放射能に汚染された津島では事故後、家や畑、周囲の山林が震災の被害そのままに放置され、野生の動植物によって荒らされてもいる。昨年から除染作業の準備として家屋の解体も始まった。

生まれ育った故郷での生活や文化を後世に残すために

多くの住民は愛着ある自宅を再び目にすることなく取り壊されてしまうことに落胆しており、国と東電に原状回復を求める原告団にも加わる同会の佐々木茂会長が中心となって、生まれ育った故郷の歴史や文化を「記憶遺産」として残すために活動を始めた。報道写真家で映画製作なども手がける野田雅也氏に撮影を依頼し、ドローンを使って津島地区に点在する約500戸の家屋や風景を空撮。避難生活を送る住民や歴代の行政区長らにインタビューを行い、原発事故当時の様子や今の状況、故郷への思いを収録した。

横浜市から津島に嫁いだ女性(71)は「津島は親の転勤で引っ越しを繰り返していた私が、結婚して40年かけて手に入れた大事な故郷。今すぐでなくてもいずれ必ず帰ると信じています。今回の活動を通じて津島に集まれた私たちはいいですが、そうできない住民がほとんど。今回の記録がみんなの励みになればうれしい」と語る。

撮影した映像は、ダイジェスト版が同会の公式ウェブサイトで一般販売されるほか、240分の完全版がDVDセットとして全国に四散する住民に送付される。来年1月に予定されている結審の場でDVDをノーカットで上映することになっている。

佐々木会長は、「震災後に生まれて本来の故郷を知らずにいる子供たちもいます。一食支援のおかげさまで、そうした同郷の皆に映像を通して里帰りをさせてあげられます。帰還への道のりは長いですが、決して諦めずに声を上げ続けていきます」と、心の内を語った。