第34回庭野平和賞が決定 パレスチナ人でキリスト教ルーテル世界連盟議長のムニブ・A・ユナン師に 中東和平に尽力
「第34回庭野平和賞」の受賞者が、キリスト教の「ルーテル世界連盟」(LWF)議長で「ヨルダン及び聖地福音ルーテル教会」(ELCJHL)監督のムニブ・A・ユナン師(66)に決定した。公益財団法人「庭野平和財団」(庭野日鑛名誉会長、庭野浩士理事長)は2月20日、京都市内のホテルで記者発表会を開き、席上、庭野理事長が発表した。パレスチナ人の同師は、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム3宗教の聖地であるエルサレムで諸宗教対話・協力を推進し、諸宗教指導者と共に混迷する中東問題の平和的解決に向け尽力。同時に、カトリックとルーテル教会の歴史的な和解を実現するなどキリスト教内の一致(エキュメニカル)にも取り組んできた。贈呈式は7月27日、東京・港区の国際文化会館で行われる。
庭野平和賞は、宗教的精神に基づき、世界平和の推進に顕著な功績をあげた個人または団体に贈られる。世界の識者600人が推薦した候補者の中から、庭野平和賞委員会(宗教協力や平和活動に取り組む世界の宗教者、識者ら11人で構成)の厳正な審査を経て選出される。
ユナン師は、1948年のイスラエル建国によって故郷を追われたパレスチナ難民の両親のもと、50年にエルサレムで生まれた。家族はキリスト教徒だったが、ムスリムと同じコミュニティーの中で平和に暮らしていた。
11歳の時、「神への愛、隣人への愛、全ての人類への愛」を説くキリストの教えに感動し、牧師を志した。フィンランドのルーテル・オピスト大学を経て、ヘルシンキ大学で神学修士号を取得。帰郷後の77年、ヨルダン及び聖地福音ルーテル教会の青年牧師に就いた。
中東に起源を持つユダヤ教、キリスト教、イスラームの3宗教は、「アブラハムの宗教」と呼ばれ、「兄弟・姉妹の関係にある」とされる。ユナン師が活動の拠点を置くエルサレムは、3宗教共通の聖地として栄えたが、イスラエルの建国と、同政府がこの地に首都を置くと宣言して以来、ユダヤ人とパレスチナ人の対立が激化し、多くの血が流されてきた。エルサレムは、国連決議により特定の国の帰属としない「国際管理区域」に指定されているものの、帰属に関する決着は、イスラエル・パレスチナ和平で最も解決の難しい問題とされる。
対立より対話を求め
こうした状況の中、ユナン師は、80年代から諸宗教対話の研究や活動に参加。第1次インティファーダ(イスラエルの占領支配に対するパレスチナ住民の抵抗運動)のさなか、キリスト教とユダヤ教の対話による平和構築を唱え、91年に両信徒と「ヨナ・グループ」を設立した。これまで、平和や正義、選挙といったさまざまなテーマの対話フォーラムを開催し、交流の場を設けてきた。
2002年、エルサレムの3宗教の指導者が一堂に会した「中東宗教指導者会議」に出席。武力衝突の早期終結を求める「アレクサンドリア宣言」の採択に関わり、全ての民族の公益のため、和解につながる平和の探求を続けることが宗教指導者間で約束された。
05年には、エルサレムの3宗教の指導者と協力し、「聖地宗教評議会」(CRIHL)を設立した。CRIHLでは、宗教者が連帯して、政治的な正義により行われる攻撃を非難するとともに、愛によって敵・味方なく全てを包み込む宗教的な真の正義を訴えている。また、教育の重要性にも着目し、イスラエルとパレスチナ双方の教科書に欠けていた「他者の中に神の顔を見る」視点を盛り込むよう、教育機関に働きかけた。それぞれの宗教を教える教員に向けた対話型ワークショップを開催するなど市民の意識改革に取り組む。
この間、中東のキリスト教社会に蔓延(まんえん)していたイスラームへの嫌悪や偏見をなくすため、キリスト教・イスラーム間の対話に尽力。国際社会に向け、中東における諸宗教対話の重要性を訴える講演も積極的に行った。
キリスト教内の一致にも尽くす
庭野平和賞委員会は、ユナン師の諸宗教対話・協力による一貫した平和構築への貢献に対し、同賞の贈呈を決定した。
これに対し、ユナン師は、「もし諸宗教間の関係が強固であれば、環境意識やジェンダーの公正を含む、地球上すべての共同体に影響を与えている関心事に我々は協働して焦点を合わせることができます」とのメッセージを寄せた。