「ロマの民族虐殺は過去の出来事ではない」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

ロマの民族虐殺は過去の出来事ではない

第二次世界大戦中、ナチスによって虐殺されたのはユダヤ人だけでなく、欧州大陸を移動して暮らす少数民族ロマやシンティも多く含まれていた。その総数は、50万人を超えると推定されている。

ナチスは「アーリア人至上主義」を掲げて、ユダヤ人、ロマ、シンティ、さらに同性愛者を虐殺したが、ロマやシンティは、歴史的にアーリア人だといわれている。ロマ、シンティに対する虐殺の中でも、1943年の8月2日から3日にかけての一晩で、女性や子供を中心とする3000~4000人がアウシュビッツのガス室で殺され、死体を焼却されたことは、欧州の人々に現在も記憶されており、欧州議会は2015年に、毎年8月2日を「ロマ民族虐殺犠牲者の欧州記念日」と定めた。

欧州のキリスト教諸教会の合同体である「欧州キリスト教教会会議」は8月2日、「あらゆる形での差別」に対する警戒、行動、告発をおろそかにしないようにと呼び掛け、「人権、特に、より傷つきやすく、除外の対象となっている人々の権利の擁護」を訴える声明文を公表した。同声明は、ロマ民族虐殺の記念日が「現在も進行している、欧州大陸における少数民族に対する差別」への戒めになるようにとアピールするものだ。「ロマに対する差別は今も続いており、キリスト教の諸教会は、全ての人々、特により傷つきやすく、除外されている人々の人権を擁護していくための警戒を怠らず、祈り、行動していかなければならない」としている。

欧州大陸においては近年、自分たちの宗教、文化、価値観、イデオロギー、生活形態を受け入れない人々を排除、差別する、極右政治勢力(ポピュリズム勢力)が台頭し、ユダヤ人やロマに対する差別や暴力行為が頻発している。こうした状況下、ロマの子供たちに対する教育プロジェクトや同民族の現地社会への同化を推進する聖エジディオ共同体(カトリックの在家運動体=本部・ローマ)は7月20日、欧州18カ国から参加した約1000人の青年たちと共にアウシュビッツを訪問し、ロマ民族虐殺の犠牲者を追悼した。青年一行の中には、イタリア、ハンガリー、スペインから参加したロマの青年たちの姿も見られた。青年一行は、「過去の記憶を持たない人々は、その過去が再現される中で生きることを余儀なくされる」との歴史の教訓を心に刻んでいた。 

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