「原爆の残り火を吹き消したローマ教皇」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)
95日間続いた礼拝――オランダのキリスト教と亡命家族
自国第一主義を標榜(ひょうぼう)し、難民や移民に対して段階的に国境を閉鎖するポピュリズム政党が台頭している欧州では、欧州連合(EU)加盟国以外からの移民の生活は、各国政府が滞在許可発行に関する取り締まりの強化する中で、困難なものになりつつある。
アルメニアから8年前にオランダへ亡命してきたタムライザン氏一家もその境遇にある。母国で反体制派の立場にあった父親は殺害予告を何度も受けた。家族にも危害が及ぶのを避けるため、妻と3人の子供を連れてオランダへ亡命してきた。
その後、子供の一人は大学に進学し、あとの二人は義務教育を受けている。だが、オランダ警察当局は3カ月ほど前、アルメニアが国際亡命者受け入れ国の枠内に入っていないとの理由で、タムライザン氏一家を逮捕し、国外追放する措置を取るとした。オランダに5年以上滞在している未成年者には、滞在許可が発行されるという法律があるにもかかわらず、政府が、その法の適用範囲を縮めてきたのだ。
しかし、アルメニア人亡命家族の窮状を知った同国のプロテスタント教会総評議会議長のテオ・ヘッテマ牧師は昨年10月25日、国内の教会指導者や信徒たちに呼び掛けて、ハーグにある教会で一家を囲んでの「ノン・ストップ礼拝」を行い、保護する取り組みを実行した。オランダの法律では、礼拝中の教会に警察の立ち入りを禁じているが、それを活用したのだ。以降、約3カ月間、720時間にわたり、650人を超える牧師や説教師が交代で祈禱台(きとうだい)に立ち、間断のない抗議のための祈禱集会が続けられた。
イタリアのプロテスタント教会のオンライン機関紙「改革」は今年2月28日、国際的にも大きな波紋を投げ掛けたアルメニア人亡命家族の件に関し、「オランダ政府関係者が再検討し、同家族の国内滞在の継続を許可した」と報道。ヘッテマ牧師は「神と、祈禱集会に住民たちが連帯して参加したことに感謝する」と述べ、「政権担当者たちが、国内の住民たちに対して最良の政策を施行できる叡智(えいち)を得られるよう、彼らのために祈ろう」と呼び掛けた。
このアルメニア人亡命家族の件が、亡命者や難民、移民の政策にもたらす影響は大きいと見られている。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)