内藤麻里子の文芸観察(11)

五十嵐律人さんの『法廷遊戯』(講談社)は、メフィスト賞受賞のデビュー作。緻密に織り上げられた新感覚の法廷ミステリーである。

法律用語満載なのに何の抵抗もないばかりか、何が描かれようとしているのか先を知りたい気持ちが高まるばかり。絡み合った謎を解く本格ミステリーのテイストながら、それぞれの若者たちの慟哭(どうこく)が底に流れている。

2部構成。第1部「無辜(むこ)ゲーム」は、法都大ロースクールが舞台だ。久我清義が在籍する最終学年には、「無辜ゲーム」と呼ばれる遊びがあった。「特定の被害を受けた告訴者が、決められたルールに従って、刑罰法規に反する罪を犯した人物を犯人に指定するゲーム」だ。審判者、告訴者、証人などのプレーヤーがいるが、審判者は常に結城馨。既に司法試験に合格している異才だ。

ある日、清義が児童養護施設で育ち、傷害事件を犯した過去をあばくビラがまかれた。名誉棄損(きそん)を訴え、無辜ゲームを申請する。一方、同じ施設で育った織本美鈴はアパートで嫌がらせにさらされていた。そして、いつも馨が座る模擬法廷の裁判長席につきたてられたナイフ――。不穏さを残したまま、清義と美鈴が司法試験を無事通過し、修習を終えた時、事件が起きる。美鈴が馨を刺殺したのだ。

第2部「法廷遊戯」では、弁護士となった清義が美鈴の弁護をする法廷闘争が始まる。

裁判と似て非なる無辜ゲームのやりとり、「罪の認定と罰の決定の経験を積むために、無辜ゲームを作った」と言う馨、冤罪(えんざい)と無罪の違いなど、程よくかみ砕いた専門知識で物語世界を構築していく。五十嵐さんの経歴を見たら、司法試験の合格者だった。なるほどとは思ったが、法律をよく知らない我々の知的好奇心をうまく刺激する手際にはちょっと感心した。

生活苦から痴漢詐欺を働こうとした女子高生や、清義が弁護士になってから担当した墓荒らしなどのエピソードがあって、それ自体が面白いだけでなく、巧妙な計算が効いている。

ロースクール時代の無辜ゲームや嫌がらせはなぜ起きたのか。そして美鈴は本当に馨を刺したのか。一般的な法律事務所での下積みを経ず、いきなり弁護士として独立した「即独弁護士」の清義がそれらの謎を追う過程と、清義と美鈴の過去の秘密が絡み合って緊迫度はどんどん増していく。

やがて刺殺事件の真相が解かれた時、見える光景は衝撃的だ。清義、美鈴、馨の抱えた思いが切実に迫ってくる。正義の在り処(か)を問う、知的興奮と悲哀に満ちた物語と言えよう。

プロフィル

ないとう・まりこ 1959年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。87年に毎日新聞社入社、宇都宮支局などを経て90年から学芸部に。2000年から文芸を担当する。同社編集委員を務め、19年8月に退社。現在は文芸ジャーナリストとして活動する。毎日新聞でコラム「エンタメ小説今月の推し!」(奇数月第1土曜日朝刊)を連載中。