「共謀罪法案」を問う 弁護士・海渡雄一氏

内心の自由を保障し、民主主義を守るために

共謀罪法案が成立すると、戦前の「治安維持法」が濫用された時代のように、監視社会になってしまう危険があります。治安維持法と共謀罪法案には、類似点がいくつもあるからです。

治安維持法が成立したのは1925年、「国体変革」と「私有財産の否認」を掲げる結社を禁止する法律で、当初は共産党に適用され、共産党に関係する人々が逮捕され、拷問を受けました。

この法律は2度改正され、刑期が引き上げられ、自選弁護人が禁止になりました。宗教団体も弾圧を受け、関係者が検挙され、教義の変更を強要された団体もあります。

治安維持法と共謀罪法案の共通点はまず、団体を取り締まろうとする刑事法規であるという点。それから、処罰の範囲が非常に不明確で、どんどん拡大されて、適用される危険性があるという点です。そうした危険があると、体制に抵抗しようとする団体は全て弾圧されることになりかねません。

さらに、今回の共謀罪法案が成立し、広く適用されると、人々は「何をしてよいのか、何をしてはいけないのか」という基準が不明確になります。犯罪というのは、「これをしてはいけません」ということを市民に命じているわけですが、裏を返すと、そこで命じられている行為をしない限り、人の行動は自由が保障されているということです。

共謀罪法案は、国家が市民社会に介入する際の境界線を大きく引き下げてしまいます。国家が、本来なら自由に活動できる市民社会の、非常に深いところまで入り込み、人間の内心にまで踏み込んでくる法律になるのではないかと思います。

監視されているかもしれないという恐怖の中で市民が萎縮してしまう。政府の方針や国家の意向に意義を唱えたら捕まるという国になったら、民主主義のプロセスそのものが失われ、社会の進歩は止まります。共謀罪法案は、民主主義と基本的人権を危険に晒(さら)す恐ろしい法案なのです。

(4月28日、東京・新宿区で行われた時事問題市民学習会の講演から)

プロフィル

かいど・ゆういち 1955年、兵庫県生まれ。弁護士。81年から、人権問題と原子力問題に関する紛争に携わってきた。現在、原発再稼働を止めるための訴訟に取り組む傍ら、日本弁護士連合会共謀罪法案対策本部副本部長を務める。近著に、『戦争する国のつくり方――「戦前」をくり返さないために』(彩流社)。