「共謀罪法案」を問う 弁護士・海渡雄一氏

3月27日に閣議決定された「テロ等準備罪法案」は、「共謀罪法案」とも呼ばれています。

この法律を作らなければならない理由として、政府は、国連の「国際組織犯罪防止条約」への批准を挙げています。1992年、イタリアのシチリア島でマフィアの撲滅運動に尽力していた裁判官が、マフィアに殺される事件が起こりました。この裁判官の死を無駄にしないため、条約の起草が始まり、署名式が行われたのです。つまり、この条約は、マフィア対策が目的です。国境を越えた経済的な犯罪組織のマフィアを取り締まる条約ですから、テロ対策の条約ではありません。現在政府が作ろうとしている法案は、まさしく「共謀罪法案」です。これをテロ等準備罪と言い換えているのは、市民を欺くものだと思います。

犯罪の計画段階で取り締まる――共謀罪で処罰されるというのはどういうことなのか。複数人による犯罪は、犯罪の合意がなされて何らかの準備が行われ、実行に着手して結果が生じます。殺人罪の場合で言うと、「あいつを殺そう」「そうしよう」という話し合いが行われる段階が「共謀」に当たり、軍資金のためにATMでお金をおろす行為が「準備」、凶器を買った段階で「予備」になります。この次が「未遂」で、「殺人未遂」とは凶器で人に切りかかった状態を言います。その先が「既遂」で、危害を加えた相手が絶命した状況など殺人という結果のことを指します。

日本の刑法は、「既遂」が原則です。通常、何らかの結果が発生していることで「犯罪」になるわけです。

一方、200ある刑法の3分の1にあたる重大な犯罪は「未遂」の段階で処罰しています。さらに例外的に、殺人や強盗、放火など極めて重大な犯罪に対して「予備罪」があり、「予備」の段階で処罰される犯罪は20です。このほか、極めて重い犯罪として、国をひっくり返すような内乱の計画や、無差別テロを目的にした爆発物の製造については、「共謀罪」が適用されます。

犯罪のピラミッドをつくると、共謀罪はこれまで頂点の1%程度の割合です。ところが今回の共謀罪法案では対象となる犯罪が277になります。これまで「既遂」という実際に事件を起こさない限り処罰されなかった犯罪が、実際に起こすかどうか分からないのに、計画を立てた段階から取り締まられようとしているわけです。

共謀罪法案は、2003年に提出されてから、3回廃案になっています。今回は濫用(らんよう)されないように対象犯罪を厳しく絞ったと政府は説明していますが、甚だ疑問です。なぜなら、確かに03年の法案と17年の法案を比べると対象犯罪の枠は狭まっていますが、07年の修正案で128まで減らされたものが、今回277まで増えているからです。一方で、政治資金規正法や相続税法違反、公職選挙法の共謀罪が犯罪対象から除かれました。

さらに悪くなっている点は、「犯罪の実行着手前に自首すると刑が必ず減免される」という内容です。これは06年の段階で、密告を奨励するからやめた方がよいという意見がとても強く、削除されていたのですが、こういった点が完全に復活してしまいました。また、犯罪を共謀した段階で裁かれるのですから、計画を中止しても罪は無くなりません。従って共謀罪と本犯、二重に処罰できるという特徴があります。

捜査方法についても刑法上の本質的な問題があります。まだ何の犯罪も起きていないが、2人以上が犯罪の実行について話し合う。そこの段階で捕まえなければなりません。そのための手段は限られています。一つは密告。または盗聴するなどの通信傍受です。

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