Withコロナを生きぬく慈しみの実践 NPO法人「抱樸」理事長・日本バプテスト連盟東八幡キリスト教会牧師 奥田知志氏

WCRP日本委の「新春学習会」で講演する奥田氏(「Zoom」の画面から)

新型コロナウイルスの国内の感染者数は、今年1月23日の時点で累計約36万人、死者は5000人を超えています。また、感染症拡大の影響による失業者は8万人に上ります。さらに、この十数年、減り続けてきた国内の自殺者数が昨年、増加に転じました。これもコロナ禍の影響と思われます。特に昨年10月の自殺者は前年比で4割増えており、深刻な状態です。

こうした状況の中で、私たちには何ができるのでしょうか。感染症の患者さんを治療するのは医療従事者でないとできません。一方で、自殺の問題に対しては、私たちも一助になれるのではないかと思います。

長崎県は、特定の相談機関で専門職の人が自殺願望のある人に対応することに加え、10年ほど前から自殺対策として「誰でもゲートキーパー作戦」(通称)を進めています。これは、普段の生活の中で、自殺のリスクを抱えた人を身近な人が早期の段階から支援できるように、一般市民をゲートキーパー(門番)として養成するものです。

ゲートキーパーの役割のポイントは、「気づく」「聴く」「つなぐ」「つながる(見守る)」です。身近な人の心身の変化に気づき、相手の悩みに耳を傾け、必要であれば適切な専門機関につなぎ、その後も見守り続けることになります。これらは、難しい知識や技術がなくてもできます。そして、宗教者が今すぐにでもしなければならないことでもあります。

私たち宗教者は、本気で自殺を止めようとしているでしょうか。宗教団体は、地域的にも、人や組織との関係においても幅広いつながりを持っています。その意味でも、宗教者の果たす役割は大きいと思います。

実際の対人援助では、二つのアプローチが考えられます。一つは、具体的な問題や課題の解決を目指すもの。もう一つは、当事者とつながり続けるもので、「伴走型支援」といわれます。宗教者もこれらを念頭に置いて、人と関わっていくことが大事です。私の教会にもさまざまな問題を抱えた方々が来られますが、相手が孤立して、誰からも必要とされず、生きる意欲さえ失っているという場合には、まず、その人とつながり続けることを大切にしています。

聖書に「インマヌエル(神われらと共にいます)」という言葉があります。「一緒にいる」ことが人の救いになるのです。今はウイルスの感染が続き、人と一緒にいるのはなるべく避けましょうと言わざるを得ない状況です。その中でも、感染防止に努めながら、神は私たちと共にいる存在だと世の中に証(あか)ししていくことが、自殺防止にもつながります。

コロナ禍を通して、私たちの生活は、エッセンシャルワーカーといわれる方々をはじめ、多くの人たちによって支えられていることを実感しました。人は一人では生きていけません。人間は本来、助け合う存在なのです。全ての人たちがつながっている、「共にいる」と感じられる社会が望まれます。

コロナ禍はまた、私たちに「いのちが一番大事」ということを改めて教えてくれました。イエスは「無くてならぬものは多くはない。いや、一つだけである」と言っています。私自身、宗教者としての姿勢を省みるとともに、宗教の本質を問われているように思います。

(1月25日、世界宗教者平和会議=WCRP/RfP=日本委員会の「新春学習会」から。文責在記者)

プロフィル

おくだ・ともし 1963年、滋賀県生まれ。日本バプテスト連盟東八幡キリスト教会牧師。認定NPO法人「抱樸(ほうぼく)」理事長。関西学院大学在学中から大阪・釜ヶ崎(あいりん地区)で路上生活者の支援活動にかかわる。著書に『もう、ひとりにさせない』(いのちのことば社)など。