少年院で過ごす少年たちの心のともしびに 認定NPO法人「ロージーベル」理事長・大沼えり子氏

2001年、保護司を委嘱され、少年院を参観した時のことです。在院する少年たちの7割以上が親から虐待を受け、また2割以上の家庭が崩壊しているという現実を知りました。彼らは本来、素朴な子供たちばかりです。家庭環境に恵まれず、心に抱いてきたつらさや寂しさを非行という形で表し、「SOS」を発してきたのです。

人生で大事な、楽しいはずの青春時代を少年院で過ごさなければいけない若者たち。そんな彼らの気持ちを思うと、胸が張り裂けそうになりました。

以来、彼らの「心のともしび」になりたいと思い、私の自作の曲やリクエスト曲に応援メッセージを添えて独自の「DJ番組」を作り、録音したものを毎月、東北地方と北海道にある三つの少年院に贈り続けています。この活動はもうすぐ20年になります。月1回の院内放送を少年たちはとても楽しみにしてくれています。

番組を聴いた少年から、こんな手紙が来ました。

「一年で一番嫌いな日。それが誕生日。小学校1年の時、担任の先生が、『今日はお誕生日ね。おめでとう!』って言ってくれて、初めて自分に誕生日があるってことを知った。うれしくて家に帰ってお母さんに、『今日、僕の誕生日だって!』。そう言ったら、むっくり起きたお母さんが酒の匂いをさせた鬼のような顔になって、『この日があるから、あたしが苦労してんだよ! シッシ!』。そう言って、布団の脇にあったハエ叩(たた)きで、僕を何十回も叩いた。僕は何度も何度も謝ったのに、ずっと叩き続けて、体じゅうが真っ赤に腫れあがった。その日から、僕の誕生日は、生まれてはいけなかった記念日になった……」

少年院にはそうした子供たちがたくさんいます。「あんたなんか生まれなければよかったのに」「おまえさえいなければ」。親からそう言われて育ってきた少年たちのために、番組では毎月、誕生日を迎えた子の名前を一人ひとり読み上げています。そして、「君たちは一人じゃないよ。応援している人がいるから頑張れ」という思いを込め、「ハッピーバースデー」と言って、曲をプレゼントするのです。すると、みんな布団の中に入って泣くのだそうです。彼らは自分の名前を呼んでもらえるのがうれしくて、心からそれを待ってくれているのです。

別の少年からは、こんな手紙をもらいました。

「クリスマスバージョンの2時間の放送では、私の名前を含め、院生全員の名前を呼んで頂き、それにロージー(大沼さんの歌手名)さんたちの歌が私の心を揺さぶりました。今まで自分は孤独だ、一人で生きていて、応援してくれる人、支えてくれる人などいないと思って生きてきました。けれど、人は支え合いながら生きているのだと思いました。リクエストラジオをきっかけに、私は夢を持つことができたのです。子供たちが少年院に入らないようにするため、私は教師になろうと思いました。希望の光が見えた瞬間でした。これから何年後になるか分かりませんが、立派に更生し、教師という仕事をして、落ち着いて話せるようになったらロージーさんたちに会いに行きたい。それが私の夢です」

この少年は、生まれてすぐ紙袋に入れられ、捨てられていたのです。施設に入り、中学もろくに出ず、暴力団に関わり、3度目の少年院でした。普通ならば、そんな子が教師になるなんて誰も信じないでしょう。でも、彼は少年院にいる間に高卒認定試験をクリアし、退院後、働きながら大学に通い、5年前、小学校の先生になったのです。私がたった一度、名前を呼んだだけなのに、彼はそれをきっかけに、その希望の糸にすがりついて、夢をかなえてくれたのです。私はうれしくて、うんと泣きました。

彼が私のところにあいさつに来た時、「お帰り、待っていたよ。ここは君の家だよ」と言って迎えました。私は13年前にNPO法人「ロージーベル」を立ち上げ、少年院を出た若者が共同生活を送る「少年の家」(ロージーハウス)を建てて、若者の社会復帰を支援しています。家族がいない、帰る家がない、誰も頼る人がいない。そんな子供たちばかりですが、みんな頑張って生きています。私の元に来た少年たちは、みんな私の子供です。

たった一人でいい、真剣に自分を思ってくれる人がいれば、子供たちは絶対に非行になど走りません。暗い顔をしている子がいたら、「大丈夫?」と、ひと声掛けてあげましょう。たった一人の助け、その一つの望みさえあれば、人は生きていけるのですから。

(2月8日、法輪閣で行われた「全国教育者習学の集い」の講演から)

プロフィル

おおぬま・えりこ 宮城県生まれ。大学在学中から東京、仙台を中心にシンガー・ソングライター、DJパーソナリティーとして活躍。2001年、保護司の委嘱を受ける。07年、帰る家のない少年たちの自立を支援する認定NPO法人「ロージーベル」を設立。24時間対応の電話相談も行っている。17年、家族・地域・社会と命をテーマにした映画『君の笑顔に会いたくて』を製作。現在も各地で上映されている。今年、女子シェルターを開設する予定で、市民に協力を呼び掛けている。09年から17年まで宮城県教育委員。著書に『「絲」~君の笑顔に会いたくて~』『この想いを伝えて…』(KKロングセラーズ)など。CDは「未来へのDiary」(映画『君の笑顔に会いたくて』テーマソング)、「SKY」(同挿入歌)など。

「ロージーベル」ウェブサイト http://blog.rosybell.jp/