【曹洞宗永壽山正山寺 前田宥全住職】28年にわたる対話活動 自身の価値観を横に置いて 心の苦を受けとめ寄り添う

信頼から生まれる「対等性」

――自己理解、自己認識を深めていくことが大事なのですね

最終的には、相談者が自ら考え、立ち直り、歩まなければいけません。私が何かを教えたり、押し付けたりすると、自立の妨げになってしまいます。

特に、希死念慮のある方は思考がネガティブになりがちなので、対話を継続し、自身と向き合い、一歩を踏み出そうとした時の確認作業が大切になります。「なぜそう思ったのか」と自ら問いを重ね、思考の基礎を積み上げていくことで、気持ちが前向きになり、目標達成への意欲が湧いてくるのです。

正山寺の門前には、「あなたのお話 お聴きします」と書かれた貼り紙が掲げられている

この段階で初めて、「今仰(おっしゃ)ったことは、仏教でもこう教えています」と後ろ盾をつくります。例えば、うつ病の方が自死を考えた時、「また同じ考えに陥っている」と気づき、その思いを手放せたとします。私はその努力を称(たた)えると同時に、本人が実践したことは、仏教で「四聖(ししょう)諦(たい)」と教えていると伝えるのです。自ら導き出した答えが、仏教と同じ考え方だと分かると自信につながります。仏さまの教えは、目指すものというより、支えとなるものだと受けとめています。

――対話活動は、ご自身の学びや気づきにもつながっているのでしょうか

対話に不可欠な要素の一つが「共感」です。よく聞かれる言葉ですが、私は真の意味で他者に共感することは不可能だと考えています。だからこそ、関心を持って話を聴くことで、相談者も私を信頼してくれる。その積み重ねによって生まれる互いの「対等性」が、私はすごく重要だと感じます。

仏教に「無常」という教えがあります。仏さまの教えの核となるものですからいつも心に置いていますが、28年にわたる相談活動を通した「誰一人として同じ悩みはなく、同じ心の動きもしていない」という気づきは、人の苦の内実を知るという意味で、私の無常観をさらに深めてくれています。このことが、対話活動を続けてきた一番の財産です。

活動当初はすごく苦しかったものの、今ではライフワークとして取り組めているのは、日常における〝布施行〟として対話を実践させて頂いているからです。相談者が立ち直り、前向きになれた喜びを一緒に実感することは、活動を続ける力になっています。体を案じる妻にその思いを伝えると、「続けていいのでは」と言ってもらいました。

仏教は「実践の宗教」と言われます。そのために必要なのは、「社会に向き合い、人と向き合うこと」ではないでしょうか。相談者を救うのは私ではなく、相談されている方自身です。対話を通して、その人の持つ生きる力、一歩を踏み出す力が少しでも引き出されることを願っています。

プロフィル

まえだ・ゆうせん 1970年、東京都生まれ。正山寺(曹洞宗)住職。一般財団法人メンタルケア協会精神対話士。超宗派の僧侶による自死・自殺に向き合う僧侶の会共同代表、中央区自殺対策協議会委員、世田谷学園中学校・高等学校講師を務める。