【元バレーボール日本代表・益子直美さん】怒らない大会に学ぶ青少年育成の在り方

未来を担う青少年の育成は重要な課題だ。バレーボールの日本代表選手として活躍した益子直美さんは、「選手時代には指導の際によく怒られました。でも、その時はよい結果が出ても、自分で考えてチャレンジしようとする気持ちはなくなるんですよね」と語る。現在、「監督が怒ってはいけない大会」を主催する益子さんに、青少年育成において大事にしている心がけを聞いた。

バレーボールが大嫌いだった

――なぜ、監督が怒らない大会を開いているのですか

2015年の初開催では「監督が怒ってはいけない」という冠はなくて、「第1回 益子直美カップ 小学生バレーボール大会」でした。でも、「せめて私の名前のついた大会では、子どもたちが監督に怒られる姿を見たくない」と、共に大会を運営する二人のスタッフに伝えると、すぐに賛同してくれて、「監督が怒ってはいけない」というルールを取り入れました。

大会の理念は、「参加する子どもたちが最大限に楽しむこと」「監督(監督・コーチ、保護者)が怒らないこと」「子どもたちも監督もチャレンジすること」の3項目。これに基づき、大会では、午前中にレクリエーションやセミナーを行い、試合は午後となります。子どもたちの心がほぐれて笑顔になり、楽しい気持ちのまま試合に臨むことで、さまざまなチャレンジができると思うからです。

試合中に怒ってしまった監督には“バッテンマスク”を渡します。勝利や技術の高さを評価するだけでなく、笑顔が印象的だった人には「スマイル賞」「スマイル監督賞」を贈呈しています。

――大会プログラムもユニークですね

大会では、毎回のように“奇跡”を目にします。8月に開催した「監督が怒ってはいけない大会㏌茨城 日立リヴァーレコラボ大会」では、午前中のスポーツマンシップセミナーでそれが起こりました。

私が、「スポーツ発祥の地はどこ?」と子どもたちに聞きますが、手が挙がりません。「大丈夫、間違えてもいいんだよ。みんな学年も学校も性格も違うんだから、自分の思いを言ってみよう。自分の答えと違っていたら、面白いなと思って聞いてみようよ」と語りかけて、ようやく発言がありました。なかなか正解のイギリスが出ず、「イタリア? 近い、イが合っている」と言うと、2年生ぐらいの小さな子が「はーい、茨城!」と。感動です。みんなが笑顔になり、会場がとても明るい雰囲気になりました。その子には「特別賞」を贈りました。

――益子さんの学生時代はどのような指導でしたか

アニメ「アタックNo.1」に憧れて、中学生になるとバレーボール部に入りましたが、楽しかったのは最初の3カ月程度。基本が身につくと、授業前の朝、放課後、休日の練習でも監督や先輩に怒られてばかり。試合中もミスをすれば怒号が飛ぶ。好きで始めたはずなのに、バレーボールが大嫌いになっていました。中学3年生の時には全日本チームに選出されましたが、怒られないためだけにプレーをしていた私は、全く自信が持てず、3次合宿を辞退。部活も辞めました。そんな私を母は、「いいよ、いいよ、大変だったもんね」と受け入れてくれました。

その後、部活を再開するのですが、「バレーを辞める」と言った時、もし母が味方になってくれず、辞めないように説得されていたら、私は意地になって二度とバレーボールをしなかったでしょう。弱音を吐く私を受け入れてくれた母に今も感謝しています。

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