【桜美林大学准教授・谷内孝行さん】「合理的配慮」で共生社会を目指す
障害者が社会生活を送る上での障壁(バリア)を、過重な負担がない範囲で取り除く「合理的配慮」が、2024年4月から民間企業に義務付けられた。誰もが暮らしやすい世界を実現するため、私たちにはどのような取り組みが求められているのか。「障害学」が専門の谷内孝行・桜美林大学准教授に話を聞いた。
説得よりも納得を
――今回義務化された「合理的配慮」とは?
行政機関や民間企業が、障害者から何らかの手助けを求められた場合に、「社会的障壁を取り除くために必要かつ合理的な配慮」を行うことをいいます。
これは、障害を理由とした差別をなくすため、2013年に成立した障害者差別解消法に定められています。今年4月の法改正で、行政機関に加え、民間企業にも義務化されました。障害の有無を超えて、互いを認めて共に生きる社会(共生社会)を実現する取り組みです。
合理的配慮には、三つのステップがあります。まず、障害のある人の「意志表明」があって始まること。次に、個々の場面で必要とされる範囲で発動されること。そして、行政機関や民間企業の負担が過重でない場合に実施されることになっています。
負担が過重とは、事業者側の業務が滞ってしまうような状況などを指します。よく誤解されますが、障害者の要望を何でも聞くことではありません。「どうすればよいか話し合う場を持ちましょう」というのが法律の趣旨なのです。
――具体例はありますか
ある建物の2階で講演会が行われるとします。車いすに乗った方が参加を申し込みましたが、建物にはエレベーターがありません。早急に設置してほしいと言われても、応えるのは難しいですよね。
そこで対応を考えます。1階に同じ広さの部屋があれば、そちらに会場を移せるかもしれません。また、会場と1階の部屋をオンラインでつなげば、画面越しの参加もできます。このように、協議して新たな選択肢を考えることが合理的配慮の目的で、「説得よりも納得」を大切にします。
このほか、発達障害や知的障害のある人が来訪し、窓口で手続きをしようとしても、言葉の説明だけでは理解が難しい場合があります。そんな時は、困っていることを本人に確認し、図やメモで説明したり、相手が焦らないように「ゆっくり書いて大丈夫ですよ」と声をかけたりすることが有効です。こうした手助けも合理的配慮の一つです。