【佛心宗大叢山福厳寺住職・大愚元勝さん】仏教で“心の生活習慣”を見直す
苦しみの根本を見極める
――悩みから抜け出すために大切にしたい考え方は
嘆かざるを得ないような現状があるとします。その現状とは「因果」の果、つまり結果です。だから、現状だけを見ても何も変わりません。自分が何を言い、どんな行動を取ったか、そうした原因を分析しないといけないのです。
例えば、健康診断で医師から「肥満です。このままでは病気になります」と言われたとします。“肥満”という現状は、日々の食事や運動といった生活習慣からできています。習慣とは、考えや行動を積み重ねるうちに、無意識で行うようになったもの。現状に苦が生じているのなら、自分の中で当たり前になった習慣が、実は望ましいものではなかったのだと気づかなければなりません。さまざまな苦の原因を、家族や上司、社会に責任転嫁している限り、苦からは逃れられないのです。
仏教では、苦を取り除く方法を「四諦(したい)」と「八正道」で説いています。四諦とは、苦を見つめ、それを滅するための法門で、苦の原因を滅すれば結果も滅すると教えています。そのための手段が八正道で、正見(正しい見解)、正思惟(正しい思考)、正語(正しい言葉)と続きますが、これらは全て、日常生活を正しくする八つの習慣についての話です。
私たちの悩みは、“心の生活習慣”から生じています。病院に行けば、体の生活習慣を指摘されますよね。ですが、薬を処方されても、それは症状の悪化を抑えるだけで、最終的に治すのは自分自身の免疫力です。心の苦しみ・傷も同じで、自分で癒やし、乗り越えることができた時に回復し、人として成長するのです。
その道しるべが「四諦」と「八正道」です。苦しみから逃れるだけでなく、苦の根本を見極めることが大事です。お釈迦さまの教えの原点はそこにあります。
――ご自身も習慣を見つめ直した経験はありますか
私は、あまり頭が良くありません。学校ではテストで赤点を取るほど成績が悪く、「大愚」という僧名の通りでした。ただ、これまでの人生で気づいたことがあります。皆さんが1時間聞けば分かる話を、私は同じ時間で理解できない。けれど、100時間聞けば少しは分かる。修行僧の頃から、人の何倍もの時間をかけて教えに触れ、学ぶことを習慣にしたのです。
私の書斎には、今も膨大な仏教書があります。先達の本を読んだら、今度はその師匠の本も購入するなどして、分からないなりに読み続けました。すると、ある本に書かれてあった事柄が、次に読んだ本の内容と結びつき、少しずつ仏教への理解が進んでいきました。
皆さんも、悩みや苦しみが生じたら、とにかく仏教の教えにたくさん触れたらよいのです。人と比べて自分の理解の足りなさを嘆き、焦る必要はありません。お釈迦さまの教えは人を幸せに導いてくれます。幸せとは何だろう、と自問しながら楽しんで学び、過ごして頂きたいです。
それから、人生ではいっぱい失敗を重ね、愚かな自分に気づくことが大切だと思います。何が間違っていたのかを理解しないと、何が正しいかも分からないからです。一人でも多くの方が心の生活習慣を改善し、苦の原因である欲・怒り・愚かさの火種を抑え、「不幸まっしぐら」な生き方から抜け出して頂きたいと思います。
プロフィル
たいぐ・げんしょう 1972年、愛知県生まれ。駒澤大学、曹洞宗大本山總持寺を経て、愛知学院大学大学院にて文学修士を取得。僧侶のほか、事業家、作家・講演家、セラピスト、空手家としても活躍する。2017年にYouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」を開設。動画総再生数は1億回以上、チャンネル登録者数は57万人に及ぶ。
書籍紹介
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佼成新聞(紙面版)「閃言万語」に掲載されたインタビューを紹介します。
4月より、紙面版のインタビューコーナーのタイトルを、「言葉を尽くして言うこと」との意味を持つ四字熟語の「千言万語」に「閃(ひらめ)く」という漢字を重ねた「閃言万語」に改めました。今後も多彩な社会事象をテーマに、読者の日常生活でさまざまな気づきにつながるインタビューを掲載していきます。