【国連UNHCR協会・中村恵さん】緒方貞子氏から受け継ぐバトン 学び、行動し、次世代へつなぐ
社会の変化の中で努力し、自分なりの一翼を担って
――緒方氏の生き方に学ぶこととは
緒方さんの最大の強みは、若い時から心身を鍛え続けたことによる強靭(きょうじん)な気力と体力です。これは、国際社会で活躍するために必要な要素です。また、会話をする際、相手の理解できる言葉を選び、声のトーンや言い回しを考えるなど、自らの意図が伝わりやすいように日頃から工夫されていました。
何より、あれこれと心配せず、今を生きることに集中して眼前の課題に挑戦していました。一つでも希望があれば、そこに全力を注ぐ。緒方さん自身もかつて、「いろいろな状況の変化の中で、自分ができることを一所懸命に努力してきただけです」と述べています。
そして、「みんなのために」という視点で他者や社会の役に立とうと常に考え、行動していました。これは、恩師であるマザー・ブリット師(聖心女子大学初代学長)の教えであり、緒方さんのぶれない行動の原点といえます。
だからこそ、我欲を超え、客観的、多面的に物事を捉えることで、世界に有益な判断と行動ができたのだと思います。「ある時から、自分の時間であることを放棄したのですよ」という言葉は、今も私の心に深く刻まれています。
緒方さんと同じように生きるのは難しいです。しかし、学びを一つでも実行することが、私たちが享受する「自由」を支える責任といえるのではないでしょうか。
――一人ひとりに果たすべき役割があるのですね
なかなか良くならないこの世界を嘆くことは簡単かもしれません。しかし、私たち一人ひとりによって世界は構成されており、自分にできることは必ずあると信じ、歩み続けることが大切です。
英語の「responsibility」は、日本語で「責任」と訳されますが、そこにある「response(応答する)」というニュアンスが隠れてしまっているように思います。自由には責任を伴いますが、同時に、自由な社会の中で山積する課題と向き合い、自分なりに社会の一翼を担っていくことが、人間として生きる使命と生きがいだと感じます。
たとえ小さなことであっても、多くの人が協力していけば、少しずつ世界は変わっていくと信じます。私も、この世界の一員である自覚を持ち、皆さまと共に「自分にできること」の実践に努め、緒方さんから受け継いだバトンを次世代に渡していきます。
プロフィル
なかむら・めぐみ 1960年、東京都生まれ。89年にUNHCRに就職。ジュネーブ本部、駐日事務所広報室勤務ののち、ミャンマーでの支援活動に従事。2000年末にUNHCRを退職し、翌01年に筑波大学大学院修士課程カウンセリングコース修了。NPO法人国連UNHCR協会の設立に関わり、職員として勤務する。共著に『キャリアの心理学』『キャリアカウンセリング実践』(ナカニシヤ出版)ほか。