【認定NPO法人「八王子つばめ塾」理事長・小宮位之さん】コロナ禍で広がる教育格差――子供たちに学ぶ楽しさ伝えたい

学習の手助けと人材育成 無報酬で教える講師たち

――コロナ禍で子供たちの教育格差がクローズアップされました。その改善には何が必要ですか?

欧州諸国には、大学の授業料を無償にしたり、比較的低額にしたりしている国が多くあります。それに比べ、日本の教育への公的支出は少なく、経済協力開発機構(OECD)の加盟国で最も低いレベルにあります。大学進学などでは家庭の負担を減らしていくことが必要でしょう。

特に最近危惧しているのは、都市部の公立小中学校におけるマンパワー不足と、教員の長時間労働です。中でも公立中学の教員にはクラス担任に加え、進路指導、クラブ活動、事務作業、保護者や地域住民との関係構築などたくさんの業務が課せられています。

法定勤務時間がOECDの平均よりも長く、その原因が授業ではなく事務作業というのは問題だと思います。意欲的な先生方も大勢いらっしゃいますが、生徒一人ひとりと向き合う時間が圧倒的に少ない。これを変えていかないといけません。現状では公立の小中学校に通う子供たちの学習フォローは、親が教えるか、学習塾に通うか、この二つしかありません。

でも、経済的に余裕のない家庭では十分な教育資源がかけられません。そのまま放置されては、そうした子供の学力は低下するでしょうし、親の経済状況によって子供の教育格差が生まれ、貧困の固定化や格差の再生産が続いていく危険性があります。解決は一朝一夕にはいきませんが、無料塾の活動を通して、現状を打破していきたいと思っています。

――無料塾の活動を支えているのは、多くのボランティア講師と支援者からの寄付だと聞いています。なぜ、継続的な活動が展開できるのでしょうか

一つには私も貧困家庭で育ったのでニーズが分かり、そこから生徒や保護者と語り合えることが大きいと思います。その中で、お米やパスタを配るプロジェクト、パソコン貸し出し事業や奨学金制度なども始めたわけです。また、そうした活動の必要性を訴えていくと、必ず共鳴してくれる人がいてくださる。これが大きいですね。

先日も、不同視用の特別な眼鏡を、地元の眼鏡店の方が4人の生徒に提供してくれました。その方は数年前、ある起業者セミナーで隣の席に座った人がたまたま私どもの支援者で、その人からつばめ塾の魅力を聞いたそうです。それで〈いつかこの塾に通う子供たちのために役に立ちたい〉という思いを膨らませてくださったのです。

先方から支援の申し出があり、左右の視力が異なる4人の生徒の検査をして、無償で専用の眼鏡を製作してくださいました。4人とも大喜びで、それまで「黒板が見えにくい」と訴えていましたが、この眼鏡を装着すると、症状が見違えるほど改善していたのです。

二つ目は、すてきな生徒たち、そして優秀なボランティア講師の皆さんに出会えたことです。今春に卒業生は200人を超えました。途中で退塾した生徒を含めると400人に上ります。ボランティア講師も延べ200人を数えます。

つばめ塾を多くの方が応援してくださる背景には、ここが単なる学習支援の場ではなく、人材育成がきちんと行われているからではないかと思います。

生徒にとってみれば、ここには自分のために無報酬で教えてくれる講師さんがいる。しかも、悩み事も聞いてくれて、心に寄り添ってくれる。これって、すごいことだと思いませんか。私は、こういう後ろ姿を見て育った生徒は、〈自分さえ良ければいい〉といったような生き方はしないと確信しています。

現に、親御さんの中には、それをよく分かってくれていて、わが子に「将来は、講師さんのように人のために役立つ生き方をするのよ」と伝えてくれている人もいます。

ここに集う生徒には、「自分は人から応援されている存在なんだ」ということを感じて、自らの人生を大きく切り拓(ひら)いていってほしいと思っています。

そして、どの仕事に就いても、どんなささいなことでもいいから、人に尽くす生き方をしてほしいと願っています。

プロフィル

こみや・たかゆき 1977年、東京都生まれ。國學院大學文学部史学科を卒業、4年間私立高校で非常勤講師を勤めたのち、映像制作の仕事に従事。2012年9月、任意団体八王子つばめ塾を設立。映像制作の仕事を辞め、13年10月、NPO法人八王子つばめ塾を設立し、理事長に就任。