【認定NPO法人「八王子つばめ塾」理事長・小宮位之さん】コロナ禍で広がる教育格差――子供たちに学ぶ楽しさ伝えたい
降り注ぐ太陽の光のように、全ての子供たちに学びの機会を与えたい――そんな願いから、小宮位之さんは「八王子つばめ塾」を始めた。活動は今年で9年目になる。ボランティア講師の協力を得て、これまで200人以上の中高生の学習支援を行い、高校や大学の進学をサポートした。
だが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、3カ月間の休止状態を余儀なくされた。コロナ禍における子供の貧困や教育格差の状況、今後必要な社会の取り組みについて話を聞いた。
休止期間にできることを 「問題の解き方」動画配信
――「八王子つばめ塾」は現在、どのような活動を行っていますか
設立以来、経済的に困窮する家庭の子供たちのために、無償で学習支援活動を行っています。対象は、八王子市内の中学生や高校生がメインです。元横山教室のほかに、公民館などの部屋を借りて市内計6カ所で教室を開き、45人の生徒が学んでいます。教材費や光熱費といった運営費用は全て寄付金から賄われます。また、講師は全てボランティアで、約60人の方が来てくれています。その顔ぶれは、社会人や主婦、教員を目指す大学生などさまざまです。
――感染拡大によって、どのような影響を受けましたか
つばめ塾は、6月1日から感染防止に配慮しながら再開しました。それまでの3カ月間は休止状態が続きました。6教室のうち3教室は公民館など公共施設を利用してきましたが、全て閉鎖となり、利用できなかったからです。
有料塾のようにオンライン授業をすべきかを検討しました。でも、最終的には、オンライン授業は行わないことにしました。つばめ塾の良さは、なんといっても講師と生徒が面と向かって触れ合い、語らうことができる温かさにあるのですが、オンラインに切り替えることで、本来の良さが損なわれてしまうと思ったからです。
つばめ塾では、画一的な授業ではなく、あくまでも一人ひとりの理解度、学習の進捗(しんちょく)状況に合わせた個別授業を展開しているので、オンラインによる一斉授業になると、その効果が半減します。かといって、個別授業を実施するとなると、現在45人の生徒がいるので、講師一人に対し生徒一人のパターンを45通り組むことになります。煩雑さから考えて、この選択肢は現実的ではありませんでした。
また、通信環境が整っていない生徒も2割程度いたため、オンライン授業を行うことで格差が生まれることが心配でした。授業を受けられない悔しさを味わわせたくないという思いがあったのです。
そのため、塾の休止期間には、つばめ塾で復習のための問題集を購入し、生徒たちに送りました。問題の解き方を収めた動画を配信し、スマートフォンで視聴できるようにしました。
――休止期間中、生徒たちはどんな様子でしたか
少なからず不安を抱えていたと思います。それまでの日常が変化したわけですから。生徒の中にはひとり親世帯も多く、休校になったことで、さまざまな弊害も出てきました。生活習慣は乱れるし、給食がなくなったことで食に対する不安も生まれました。そこで、以前からお米とパスタを希望者に配布するプロジェクトに取り組んできたことを生かしつつ、直接手渡せないため郵送しました。
それから、特に心配だったのが受験生である中学3年生や高校3年生たちです。学習面での遅れもそうですが、受験生対象の学校見学会や文化祭が軒並み中止になったことです。
つばめ塾に通う生徒たちの多くは、文化祭や学校見学などで各校の雰囲気や部活の様子を見て、〈この学校ならば入りたい〉といった明確なビジョンを思い描き、受験へのモチベーションを高めていきます。今年はそれが難しく、生徒たちのモチベーションをいかにして高められるかが今後の課題だと受けとめています。
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